※本稿は、大森健史『進化するシン富裕層』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
普通の人とお金持ちの違い
シン富裕層は、元々は「ごく普通の人」でありながら、一代で巨万の富を築いたという人たちです。
では、「ごく普通の人」からシン富裕層になれる人と、シン富裕層になれず「ごく普通の人」のまま一生を終える人たちとの差は、どこにあるのでしょうか。
私が2万人を超える富裕層と接してきて実感したのは、「ごく普通の人」たちは保守的だということです。何をするにも、「身の丈に合った」ものがいいのだという、思い込みの鎖に縛られています。常に「身の丈」という名の見えない壁に囲まれているように感じます。
その壁は、私たちの行動を制限し、可能性を狭めていると言ってもいいでしょう。
印象的なエピソードがあります。私の先輩で、外資系コンサルティング会社のマネージャーとしてバリバリと働き、推定年収が2000万円を超える優秀なビジネスマンがいます。高いコミュニケーション能力と論理的思考力を武器に数々の難関プロジェクトを成功に導いてきた人です。都心の高級マンションに住み、華やかな交友関係を持っています。
ある日、その先輩と一緒に中古車販売店へ行ったところ、BMWのM5という、スーパーカーに匹敵する性能を持つ人気のスポーツセダン車が店頭にありました。M5は、新車なら当時約1700万円で販売されていた、超高級車です(2025年10月時点での希望小売価格は2048万円)。
しかしその中古車は、ほんの1年落ちで、1000万円ほどで売られていたのです。当時新車で買うより700万円も安いわけです。
憧れの高級車よりも「身の丈」を優先してしまう
先輩が「これめちゃいいやん、内装もお洒落だし、1万キロしか走ってない。ほとんど新車みたいなもんやな」と言うので、私は「先輩、これ買えばいいじゃないですか! 絶対似合いますよ‼」と子どもに戻ったようなテンションになり、購入を勧めました。
ところが、それまで子どものように目を輝かせていた先輩が急に真顔になり、「いや、俺にはまだ早い」と言ったのです。
先輩は昔からBMWが大好きで、その価値をよくわかっていて、当時もBMWの別モデルに乗っていました。
50歳を過ぎて外資系でバリバリと働き高年収で、借金だってありません。そんな先輩が買うのが「まだ早い」のだったら、誰ならいいんですか⁉ と、思わずのけぞりそうになったものです。
「まだ早いって、いったいいつになったら買うんですか? 先輩なら余裕で買えるじゃないですか」
という私の言葉に、先輩は静かにこう答えました。「確かに、俺は今ならこの車を買えるかもしれない。でも、俺はまだこの車にふさわしい人間になっていない気がするんだ。もっと仕事で成果を出し、もっと人間的に成長してから、この車に乗りたい」と。にわかに納得できない話でした。

