非言語表現に目を凝らし、真意を訊き出す

「A stitch in time saves nine」(時宜を得た1針は、9針の手間を省く)

衣服が破れたときに、すぐ縫えばたった1針で済んだのに、後で縫おうと思っていたら、結局9針も縫わなければならなくなった、という諺です。

これは、「傾聴」と「話す」という作業の関係にピタリと当てはまります。はじめに相手の話を聴くことに9割の時間とエネルギーを割くことができれば、その後はたったひと言で十分です。

相手の事情や感情をよく聴き取ったうえであれば、たったひと言でも、相手のニーズにピタリとはまったり、相手がこちらの意図通りに動き出すのです。前もって相手に関する情報を十分に収集して、会ってからは9割の力を聴くことに注いで、ひと言パチリと発言して決めましょう。集中力を傾注したひと言で、王手をかけるのです。

そのひと言は、絶対的な効き目を持って相手を動かしていきます。「聴いて9割、話して1割」とは、そういうことなのです。

ここで、感情移入、感情コントロール、質問技法の3つがセットになった傾聴力にまつわる応用例を紹介しましょう。私の友人K社長の話です。

K社長は町工場を経営し、80人の社員がいます。ある年の12月、残業が続いて工員たちの士気が落ちていると感じた主任が、「社長、なんとか残業を減らすことはできませんか?」と相談にきました。

多忙のあまり、焦りの気持ちが募っていたK社長はムカッときて、直ちに、

「そうは言っても君、納期は厳守だ。そこをなんとか皆で切り抜けるように言うのが、君の役目じゃないか」

主任は黙り込んでしまいました。

翌日、「強く言いすぎたかなあ。工員が辞めてしまうと、実に困るんだけど……」とK社長。

その話を聞いた私は、「怒らないで、主任にもっとよく聞いてみたらいかがですか? 残業時間ではなく、お金の問題かもしれませんよ」と提案しました。