階層の固定化がより重要な論点に
しかし、ここでより注目すべき論点は、「親の収入と子どもの収入は、どれほど強く結びついているのか?」という点です。
たしかに、親の経済力が教育環境に影響を与え、結果として子どもの収入にも影響があるという構造は読み取れます。
では、その力はどの程度強いのでしょうか。
たとえば、もし「親が金持ちなら100%子どもも金持ち」であるなら、それはもはや「身分制社会」と言えます。生まれた瞬間に人生のコースが決まり、努力の余地がない――中世の貴族制度と変わりません。
一方でその関連が10%程度なら、「親が低所得でも高所得層に飛び込む可能性は十分ある」、つまり“努力で切り開ける社会”と言えるわけです。
では現代日本や欧米諸国はどちらに近いのでしょうか? 100%に近い「階級社会」か、それとも10%に近い「流動社会」か――その中間なのか。
そして、親の所得が子どもに与える影響を弱めるには何ができるのか。どの政策が有効で、個人・家庭として何ができるのか。
本稿では、これらの問いに対して最新の研究と実証データをもとに答えていきたいと思います。
親と子の収入の関係を測る物差し
この「親の所得の影響がどれほど子どもに及ぶのか」を測るために、研究者が使ってきた指標があります。
それが「世代間所得弾力性」というものです。
この指標が高いほど、「親の所得の変化が子の所得に強く反映される社会」です。逆に低いほど、「親の所得の多寡に関わらず、子どもの所得が決まりやすい社会」であると言えます。
この世代間所得弾力性を使った分析の結果、「どの国が階層固定社会」で、どの国が「流動性の高い社会」なのかがわかってきました。
たとえば、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンといった北欧諸国では、世代間所得弾力性が男性で0.1〜0.25、女性で0.005〜0.02と非常に低い値を示しています(*1)。これは「親の所得が低くても、その影響が子どもの所得にほとんど反映されない」=「生まれの影響が小さい社会」と言えるでしょう。
一方、アメリカやイギリスでは、世代間所得弾力性が男性で0.3〜0.5、女性で0.3程度と高い値を示しています。つまり「親の所得が高ければ子の所得も高くなりやすい社会」、つまり階層固定性の高い社会と解釈できます。

