チャイナリスクと向き合う覚悟を
共産主義は貴族や資本家から収奪した富の分配については説明していても、富をどうやってつくるか、皆でつくった富をどうやって分けるかという論理がきわめて弱い。ここが1番の問題で、共産主義とは「皆が貧しい時代の教義」なのである。
中国社会は豊かになった。少なくとも全体のパイは巨大になった。にもかかわらず、不正や腐敗が横行して、富の偏在は革命以前よりも拡大している。少なくとも共産主義革命は失敗した、と中国版ペレストロイカを標榜する人がいれば叫ぶはずである。富の創出に貢献のあった人よりも、権限を持った共産党の幹部や政治家に富が集中している。それが一党独裁の「成果」であり、今の中国が抱えている矛盾のすべてを物語っている。
当然、中国社会には不満が充満している。これまでにも年間20万件くらいのデモやストライキがあったが、主役は土地を取り上げられた農民など貧しい人たちだった。しかし、成長が止まり、土地バブルが崩壊するとなると先に豊かになった「ハズ」のインテリ層、小金持ち、中金持ちが不満分子の中核となってくる。そういう人たちの不満が表出した形の1つが、国外脱出だ。1億円以上持っている中国人の50%は国を出る準備をしているといわれる。またすでに妻子や資産を海外に移して、身1つで海外に逃げられる「裸官」と呼ばれる高級官僚は125万人いるといわれている。
習近平国家主席は党の重要会議で「民衆の支持がなくなれば、党の滅亡につながる」と腐敗の一掃を指示した。胡錦濤時代の改革「和諧社会」さえ行きすぎと考えているから、習近平は内政を引き締めようとする。倹約令と腐敗の摘発で民衆の不満をなだめようとしているが、それで改革開放で決定的となった貧富の格差の拡大が埋まるわけではない。結果として、中国の政治と経済の矛盾はますます拡大し、人民の目を外に向けるために周辺諸国との関係が緊張する。
今の中国指導層にそれ以外の知恵も歴史を見直す勇気もない、と理解すれば、日本企業は中国の次の10年は、チャイナリスクと向き合う覚悟と準備をするべきだろう。同時にアジアの他の諸国との「リバランス」を検討することも必要となる。