日本では電気自動車(EV)はまだまだ少数派だ。本当にEVは普及するのか。50年間、ドライバーとしてモータースポーツに関わってきたモータージャーナリストの清水和夫さんは、かつてEVに懐疑的だったが、いまでは「EV推し」に転向したという。経済ジャーナリストの安井孝之さんが理由を聞いた――。
清水和夫さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
モータージャーナリストの清水和夫さん

ガソリン車がいい、と思っていたけど……

――EVに対する評価が随分変わったようですね。

【清水】もう50年ぐらいずっとエンジン車でモータースポーツやってきたので、自分の血管には、ガソリンが流れている、と思っていたほどです。電気なんか流さないって、言っていたのですが、うん、流してもいい電気が出てきたかな、と思っています。

――過去はBEV(バッテリーEV)嫌いでしたね。変わったのですか。

【清水】充電で30分もかかるし、冬になったら充電がしにくい。いい加減な車をつくりやがって! と思っていましたが、今は違います。技術進化が急速に進んだことが大きい。バッテリーでは正極にリン酸鉄を使う「リン酸鉄リチウムイオン電池」が使われるようになり、より安全になり、コストも下がった。そして何よりもEVではパッケージ革命が起きています。バッテリーは床下の低い位置に置かれるので低重心が実現しました。トランスミッションがなくなるからキャビンも大きくできる。エンジン音がなくなり、キャビンの静粛性も高まりました。いわば破壊的イノベーションが起きています。

ようやく「これはいい!」と思えるEVが出てきた

――技術進化といえばAIの進化も大きいですね。自動運転技術の導入もEVが先行しています。

【清水】電動化と電脳化が一緒に進化しています。その意味でEVは電脳化とも相性がいい。テスラのADAS(先進運転支援システム)を使ってみると、とてもよくできています。これはレベル2だから、自動運転じゃなくて運転支援ですが、ハンズオフが可能なE2Eという技術も実用化が始まりました。E2EとはエンドトゥエンドというAIによる機械学習ですが、テスラはずっと前から人間と同じように認知判断するE2Eにこだわってきました。

最近、オーストラリアではテスラのモデル3とモデルYならソフトをダウンロードすることで、システムがOTA(オーバージエア)でアップデートされ、市街地のハンズオフが解禁されました。もちろん自動運転ではなく高度な運転支援なので、前方監視義務が課せられますが。もう完全にSDV(ソフトウエアで定義される車両)が完成している。ハンズオフでスマホ見たりして前方監視義務を果たしていなかったら、その機能を使えなくするような仕組みも入っています。

――AIがドライバーを教育するんですね。

【清水】まさにAIエージェントと共存する時代になりました。しかし大きな電池を積んでいないエンジン車では自動運転などの電脳化には限界があります。その点、EVは電脳化を進めることができます。僕の人生は、とにかくリアル体験が自分の「メートル原器」です。いくらいいことを聞かされても、それだけでは絶対信用しない。やっぱり自分で乗って、自分の脳で考えて、いいか悪いかを判断します。EVもようやく乗って、「これはいい!」と思える車が出てきました。「EV2.0」になったと思います。