3月、大阪と鹿児島が新幹線で繋がる。デザインを手がけるのはその列車を目的に旅をする人もいるという水戸岡鋭治。心地よく、どこか懐かしい空間づくりの秘密とは。
風光の地、九州が一気に近づいてきた。
3月12日、九州新幹線が全線開業し(鹿児島ルート)、博多~鹿児島中央間が最速1時間19分で結ばれる。山陽新幹線との相互直通運転で、新大阪~鹿児島中央間もわずか3時間45分。
地元の人々にとっては、もちろん日常の便利な足となるわけだが、観光産業にとっても振興のチャンスであることは間違いない。
もっとも、これまでも、JR九州の在来線の旅は魅力的だと高く評価されてきた。列車の内外装デザインが際だっており、そこに身を置くことが楽しく心地いいというのがそのひとつの理由だ。
九州の列車や駅舎に新たな息吹が吹き込まれ始めたのは、1990年のことだ。JR九州は、当時の社長石井幸孝の鶴の一声で鉄道デザインでは無名といってもいい水戸岡鋭治を起用、次々と新機軸を打ち出し始めたのである。
水戸岡はまず、日豊本線の特急「にちりん」を赤く塗り上げ、「レッドエクスプレス」としてリデザインする。さらに2年後には、ガンメタリック色の精悍な顔つきをした特急「つばめ」を誕生させ、鉄道ファンのみならず、世間をあっと言わせた。「つばめ」は、国際鉄道デザインコンテストのブルネル賞などを受賞、水戸岡の名前は人口に膾炙した。