年末年始の予定は決まっているだろうか。富裕層マーケティングを手掛ける西田理一郎さんは「経営トップの間でZoom-out travelと呼ばれる、デジタルデバイスから解放され、思考のための時間を意図的にとる旅がホットだ。常時ネットとの接続を強いられる一般人との格差が広がりつつある」という――。

つながりすぎる社会の弊害

世界を揺るがした新型コロナ感染症は、日常を一変させた。折しも、IoTブームの真っ只中。あらゆるモノがインターネットにつながり、新たな価値を生み出す――そんなインターネット中心の時代がさらなる加速を見せていた矢先の、緊急事態宣言だった。

オンラインミーティング
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そして一躍、世の中のスタンダードとなったのがZoomである。会社に出勤せずとも業務は回り、ワーケーションという働き方が新たな常識として定着した。「本当に便利な時代になったものだ」――当時、私はそう感じていた。

だが一方で、当たり前のようにオフィスで交わしていた何気ないコミュニケーションが消失しても、業務は成立する。その事実を目の当たりにした貴重な時期でもあった。これが良いのか悪いのか、いまだに評価は分かれるところである。ただ、デジタルコミュニケーションが急速に浸透したことは紛れもない事実だ。

そして今、便利になったこの時代に隠された問題を掘り下げてみると、意外な真実が浮かび上がってくる。何でも快適につながるという「つながりすぎる社会」の弊害である。皮肉なことに、私たちはいま、「つながらない贅沢」という新しい時代の入り口に立っているのだ。

ネットの速さ求める庶民、圏外を求める富裕層

「最新のiPhoneに変えたんですよ。5Gが超速くて!」

そう自慢げに語るスタッフを横目に、本物のエリートたちは密かに別の場所へ向かっている。スマホの電源を切り、ノートPCをロッカーに預け、圏外表示が出る場所へ。彼らが求めているのは、接続の「速さ」ではない。接続からの「解放」だ。

今、新たな旅行トレンドが静かに広がっている。その名も「Zoom-out travel(ズームアウト・トラベル)」。Zoomミーティングから、Slackの通知から、Xの炎上から――あらゆるデジタル接続から意図的に逃亡する旅である。

そして驚くべきことに、この「Zoom-out travel」に年間100万円以上を投じているのは、誰よりも情報に敏感であるはずの経営者、投資家、コンサルタントといった高所得層なのだ。一般人が「つながる速度」を競っている間に、エリートは「つながらない場所」に逃亡している。この現象が、いま水面下で進行している。