タワマンは本当に「住みやすい住環境」なのか
――都内だけでなく、東京近郊でもタワマンを併設した大規模な再開発が進行中です。各地で進む再開発をどのように受け止めていますか?
【山本(以下同)】私が建築家として、もっとも大切にしてきたのが、建物を通じた地域コミュニティの創出です。建築家の仕事で重要なのは、新たな建築物が、周辺環境や住民たちにどのような影響を与えるか考え、住みやすい生活環境を創造すること。
しかし、近年再開発で建てられた超高層マンションには周辺環境への配慮は一切ありません。
たとえば、2019年に台風の影響で武蔵小杉の超高層マンションが浸水する騒ぎが起きました。原因は、超高層マンションを建築するスピードに、上下水道のようなインフラ整備が追いつかなかったからです。住民が一気に増加したせいで、地元の小学校が超高層マンションに暮らす子どもたちを受け入れきれないという弊害も起きています。
六本木や麻布での再開発も進み、街の様相は一変しました。当然ながら、再開発地には昔から住み続けてきた住民がいて、住民同士が助け合って暮らす、居心地のいいコミュニティがあった。そういった人たちが紡ぎあげてきた環境はどこにいったのでしょうか。
麻布台ヒルズ森JPタワーの最上階にあるペントハウスの価格は1部屋200億円ともいわれています。デベロッパーは再開発という耳障りのいい言葉を口にしますが、実際はコミュニティを破壊した金儲けにすぎません。
日本の再開発とガザは似ている
また地域コミュニティは、工芸や伝統的な産業を育む場でもありました。けれど、再開発によって伝統や文化も失われてしまいます。
少し前の話になりますが、築地市場が閉鎖され、更地になってしまいました。失われたのは市場だけではありません。周囲には料亭があり、江戸からの文化として社交の作法を残していました。コミュニティの中核であった市場がなくなり、伝統や文化が断絶の危機に直面しています。
計画段階で、そうなることは分かっていたはず。それなのに、利益を追求するデベロッパーは、地域や、住民の事情を顧みることはありませんでした。多くの自治体はむしろ、そうしたデベロッパーを支援こそすれ、住民に寄り添うことはありません。
文化の持続性の断絶という点で、私には日本の再開発が、戦時中に行われたアメリカ軍による日本の都市への空襲や、現代のガザに重なって見えます。


