氏の著書『小倉昌男 経営学』に、そのエピソードはある。

マンハッタンの4つ角に同じ会社の集配車が4台停まっていた。多くの人はそんなことに気づかないだろう。気づいたとしても「この会社がんばっているな」と思って通り過ぎてしまうのではないだろうか。

小倉氏はそこではっと閃く。「宅急便システム」のカギは「集配密度を上げる」「車両を増やし、各担当の受け持ち区域を狭く取る」ということ。マンハッタンの風景という断片から「宅急便システム」という“意味ある全体像”を描き出したのだ。

なぜ小倉氏にはビジネスのヒントが閃いたのか。顧客の立場に立ち、荷物をより早く、効率的に送るにはどうすればよいかという問題意識が常に念頭にあったからであろう。

翻って自分の職場について考えてみよう。この不況で、部下のモチベーション低下に悩んでいる読者諸氏も多いのではないだろうか。

この場面にもビジネス・インサイトへの意識が有効だ。例えば、いまの仕事はどんな意味があるのか部下に問いかけ、部下の立場に立って自らも考えてみる。それによって部下自身の問題意識を高め、やる気を引き出せるかもしれない。

『小倉昌男 経営学』 小倉昌男著 日経BP社 本体価格1400円+税<br>
『暗黙知の次元』 マイケル・ポランニー著 ちくま学芸文庫 本体価格900円+税<br>
『ビジネス・インサイト』 石井淳蔵著 岩波新書 本体価格780円+税