平蔵の申し出に興味を持った定信は、さらに詳しい内容を求め、平蔵は数日後に次のような企画案を提出した。
一、設置場所は、逃亡を防止するため、また費用を節約するため、川に沿った土地とする。
一、建物は牢屋に似たものとし、昼間は作業場で働かせる。
一、作業の内容は草履・馬の沓などの藁細工、牢屋飯米の精白、江戸城御堀の浚渫、蔵前御蔵での荷揚げ、油搾りなど公共作業。
一、被収容者の片鬢・片眉を剃り落とし、首枷をする。
一、国の恩と親の慈悲を教える。
一、期間は有期とし、期間が終了したら出所。改心しない者は終身拘禁。
一、懲罰内容は敲刑で、逃亡者は死刑。
理屈を並べたものではなく、あくまでも具体的な「HOW TO」を盛り込んだ実務的プランだった。幕府を経営する立場にある者がイメージしやすい、経営上の「計算」をしやすい企画案を見た定信がよろこばないはずがない。
結果、平蔵の企画案は、定信からGOサインを出されることになる。
さらに平蔵は2項目を追加しているが、じつはウラがあった。
A案――広い地面を確保していただければ、人足を農作業につかせたい。
地方から出てきた者たちが人足寄場を出てUターンしたときに役立たせようというものだったが、じつは、広い土地を確保することで、余った土地を町人に貸し与える、「テナントビル」「月極駐車場」構想だ。
B案――外部からの目隠しとして、檀やクルミなどを植林したい。
目隠しのための木が成長したところで、その木を売り払うつもりだった。
「カネ儲け」をオモテに出すとカタブツの定信が反対すると思ったのだろう。
だが、人足寄場経営の財源確保のために追加案は、実現しなかったようだ。はじめから「財源確保のためです」と言えばよかったのに……と思う。
より具体的なプランを上司に提案することで企画を通し、そのうえで財源確保まで考えた平蔵。合理的な精神を持ちあわせた、かなり優秀な実務家だったと言っていい。