男は「成功」せよ、女は「自分らしく」あれ

連載第3テーマでは「20代で○○をせよ」といった「年代本」、特に男性向けのものを扱い、第7テーマでは女性向けのもの(この場合は、「28歳からの○○」といった特定の年齢に注目する「年齢本」でした)を扱いました。

男性向け「年代本」が目標とするのは、概して「成功」です。人より抜きん出たスキルの獲得、それによる出世、高い収入の獲得、等々。こうした目標をよしとする価値観は、「一流品に触れることで自らを高めようとする。自らの仕事の状況やライフスタイルに合わせて住居を転々とすることを厭わない。仕事とプライベートを分けず、プライベートの中に仕事のヒントを見出し、子育てにマネジメントの考えを導入する。子どもの私立校受験を当然と考える」と以前紹介したような、ライフスタイル全般における「アッパー(ミドル)」志向と結びついています。

こうした志向のものばかりではありませんが、概して男性向けの自己啓発書はこのような、アッパー(ミドル)的な人生の実現をその世界観の基調としているように思えます。『プレジデント』もそうですね。

一方、女性向け「年齢本」が目標とするのは「幸せ」でした。「自分らしく」あること、美しくあること、素晴らしい恋愛を重ね自分自身を磨くこと(結婚については意見がわかれているのですが)、等々。男性向け「年代本」のように、そこに階層性を読み込むのはやや難しいと考えるのですが、女性向け「年齢本」でより注目すべきなのは、「ベタな女らしさ」をよしとする価値観が示されていることだと私は考えます。

つまり、社会調査のデータからすれば、特段成人女性の自己肯定感が低いという傾向はみられないにもかかわらず、「自分を好きになろう」「自分を認めてあげて」といったメッセージが多くみられること。女性は何よりも恋愛をするべきであり、外見の美しさを気にすべきであるということ、等々。連載第11テーマ「就職活動論」における、女子学生向けのマニュアル本でも、就職活動で成功するために、「オジサマ」に気に入られるような、「ベタに女らしい」外見、プロフィール、自己アピールが推奨されていました。

男性は仕事上の能力の向上や成功を第一に考え、出世をして、金持ちになる。女性は仕事も私生活も「自分らしさ」を大事にし、恋愛に、美容に励む。世の中のメディアから発信されているメッセージも概してこのようなものかもしれませんが、自己啓発書もまたそのような「ベタ」さを疑うことなく、むしろ称揚すべきものとして語っているのです。その意味で、自己啓発書は、自分自身の内面を変えることについては啓発的かもしれませんが、世の中の見方を変えることについては、啓発的とは言い難い面があるのかもしれません。