治療結果を説明し会社側の理解を得る上司面談
復職プログラムはおよそ以上のように進められ、修了時には「上司面談」が行われる。これは参加者の勤め先の上司や人事担当者などに来院してもらい、患者と主治医とスタッフが同席し、病状の回復具合について情報共有を図る場だ。
円滑な復職の実現のために、参加者当人が何をどのようにできるところまで治ったのか、課題として残っているのはどんな部分か、病院側が説明する。その際、集中力や注意力の検査結果を数値化して示すなど、情報の客観性、説得性に心を配っている。
従業員のメンタルヘルス管理の重要性は、ここ10年でかなり知れ渡った。うつ病患者の職場復帰に対する理解も進んでいる。けれども、それと同時に精神科の「診断書」に対する職場側の見方がシビアになっている。「特に、休職を繰り返してきた方の復職は厳しい。本人が希望しない職場に回されるなど、難しい部分がどうしてもあります」(精神保健福祉士の前田沙織氏)。
復職者を迎え入れるほうにも、当然ながら戸惑いや負担感がある。職場にうつ病患者が出たり、うつ病休職者が戻ってきた場合、その上司や同僚はどんな点に注意したらいいのだろうか。意見を出してもらった。
「1日の最後に、上司が『今日はどうだった?』と声かけしてくれるといいですね。ご本人が自分の状態を発信しやすいように」(看護師の松尾好子氏)
「腫れ物のように扱うと、その立場に依存してわがままになる方もいます。周りが振り回されて疲弊しないためにも、気遣いすぎてはよくありません」(精神保健福祉士の荒木健介氏)
「何をしなくちゃとか、何をしたらいけないではなく、普通に接することが大事です」(龍氏)
つまり、普通が一番。それが一番難しい気もするが、共に働くからには仲間同士という意識を普通に持つ。肝心なのは、そういうことかもしれない。
それにしても不知火病院は、どうしてこんなに患者本位の医療を行えているのだろう。大勢のコ・メディカルスタッフを揃え、診療報酬点数を稼ぎにくい非薬物療法に注力する。保険適用外の「カウンセリングナース」に至っては、無料サービスだという。
経営者でもある徳永院長に、仕事のモチベーションを尋ねた。
「たしかに儲かりません。でも、自殺をしようという人が、朝日が昇るのを見て、『ああ、自分も生物の一員なんだ。呼吸しているだけでもいいんだ』と発見したりするんです。生きる意味やエネルギーを患者さんから貰える仕事に私は就いている。だから、医療に妥協はできませんよ。病院を潰すわけにもいきませんけどね(笑)」