うつ病患者には、とにかく抗うつ薬を処方。調子が上向かなければ薬を増量、あるいは他の薬を追加。再診以降はいわゆる3分間診療……。それが一般的なうつ病治療の現実だ。だが、不知火病院は薬物療法を「対症療法」と位置づけ、より根本的な治療として、認知行動療法をはじめとしたカウンセリングに力点を置いている。

「以前からある自責的なメランコリー親和型のうつ病にせよ、最近増えている自己愛的な現代型うつ病にせよ、患者さんのネガティブな感情を受け止めることから治療は始まります。しっかり話を聴いて、安心できる関係性を築き、ときには励ます。患者さんが抱えている個々別々の問題に、心から向き合う医療が欠かせません」(徳永院長)

そこまでの医療を行うには、医師のマンパワーだけでは到底足りない。不知火病院では、数多くの臨床心理士が常勤し、患者本位のカウンセリングを可能とする体制がとられている。また、「カウンセリングナース」という独自の手法も効果をあげている。

「カウンセリング技術を習得した看護師たちが、1回あたり20~30分を目安に、1日15人ぐらいの患者さんに対応しています。言葉のやりとりをしながら患者さんの感情に寄り添うのは臨床心理士と同じですが、ナースにしかできない部分もあるのです。例えば患者さんが動悸を訴えたら、『どうしたの?』と脈を測る。人の不安に身体を通して関わることは、看護師にしかできません。それと、カウンセリングナースは主にベテラン看護師が担いますが、母親的なアプローチが有効なケースもよくあります。実母との関係で積み残していた問題を、カウンセリングナースとの関わりのなかで処理していけます」(徳永院長)

どんなタイプのうつ病患者も、自分でコントロールできない攻撃性を抱えている。カウンセリングナースは、その攻撃に対して“サンドバッグ”に徹することで信頼を得る。相当しんどい役割のように思えるが、そうした患者のネガティブな感情には、「作業療法士や精神保健福祉士も含め、スタッフ全員が対応しないといけません。そういう体制もこの病院のなかに整いつつあります」と徳永院長はいう。