市場を育てるオトメの過激な想像力

ところが最近、「美少女ゲーム」の市場は急激に縮小しています。10年前をピークに毎年売上額は減少し、2011年では243億円とピーク時の半分以下の市場規模になっています。それに対して「乙女ゲーム」の市場規模は、146億円とまだ「美少女ゲーム」には追い付いていないにせよ、前年比30%増と年々その規模を拡大させています。

なぜ男性向けの「美少女ゲーム」の売り上げが落ち込み、女性向けの「乙女ゲーム」はこれほど勢い付いているのでしょうか。

「美少女ゲーム」と「乙女ゲーム」の大きな違いは、男性と女性の想像力の差に基づいていると私は感じています。男性よりも女性の方が想像力が豊かであり、想像力を働かせて楽しむことができるように思えます。

たとえば、「美少女ゲーム」にも「乙女ゲーム」にも、イベントシーンとよばれる場面が途中に入ります。いわゆる物語の見せ場です。「美少女ゲーム」では、大概、登場キャラクターとの性行為がイベントシーンになります。それに対して「乙女ゲーム」では、登場キャラクターとの心理的接近を印象付けるシチュエーションのみが表現されます。

男性の場合、想像力を働かさなくてもよいストレートな表現を好むため、どうしても「美少女ゲーム」はアダルトソフトの枠から抜け出られなくなります。実際、「美少女ゲーム」はアダルトビデオと同じ流通網で販売されます。多くの人の目に触れる一般家庭用ゲームソフトとして流通されるには、アダルト部分をカットした再編集版を制作することになるのですが、そうすると多くのイベントシーンが抜け落ちた別作品になってしまいます。

ところが女性の場合、想像をかきたてるシチュエーションを重視するので、作品の表現の幅もかなり広がります。露骨な性表現に拒否反応を示すユーザーも多いので、アダルトゲームになりにくく、最初から一般家庭用ゲームソフトとして流通できます。実際の内容は「美少女ゲーム」より過激であっても、想像力を駆使して「分かる人にだけ分かる」表現がされるので、規制の対象にもなりにくいのです。

私は「美少女ゲーム」の市場拡大には限界があり、「乙女ゲーム」には大きな可能性があると感じています。かつて「美少女ゲーム」を求める男たちが秋葉原に集まったように、これからは、「乙女ゲーム」を求めるオトメたちが秋葉原に集まるように手を打っていかなければと考えています。

一般にオタク男子が集まるところが秋葉原だとすれば、オタク女子が集まるところは池袋だと言われています。そうすると、秋葉原に「乙女ゲーム」が好きなオトメたちが集まるのは、一時的な現象にすぎないのでしょうか。

次週の後編では、池袋と秋葉原に集まるオタク女子の違いと、住み分けの可能性について述べてみます。

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