「創業者意識」が浸透しているか
だが、こうした経営手法が、どこの企業にもマッチするのだろうか。JALの再建過程も踏まえて、その実力を検証してみよう。
まず押さえなければならないのが、稲盛名誉会長がアメーバ経営に辿り着いた背景だ。京セラは1959年に、稲盛名誉会長が気心の知れた数人の仲間と、資本金わずか300万円でスタートした会社。当時の従業員は28名に過ぎなかった。それから半世紀あまりを経た昨年3月末のグループ会社は235社、従業員は7万1489人に達した。成長にしたがって、不都合も生じた。それは、大きくなればなるほど、稲盛名誉会長や当初の仲間のように会社と一丸で収益極大化に尽力する社員の割合が減っていったことである。
中小企業のオーナーは、かまどの下の灰まで資産と考えて、その有効活用を試みるという。大企業になった京セラに、雇われの身の給与所得者として入社した社員たちが、最初から名誉会長たちと同じ経営感覚を持っているはずがない。そこで、どうすれば、社員すべてに問題意識を共有させられるかとの観点から編み出されたのが、アメーバ経営だ。大切なのは、損益分岐点など難しい経営学の概念を理解しなくても、単に売り上げを増やすとか、コストをカットするといったことではなくて、売り上げとコストの両方を見て儲けを伸ばす行動を、新入社員やパートタイマーにもとらせることである。
これを実現するため、アメーバ経営は会社を数人単位の小さなセクションに分類。その売り上げやコストの項目を列挙した月次の一覧表を作成し、トータルの儲けを期初からの達成度として把握する仕組みとなっている。毎月3日間程度の会議を開いて全員で徹底的に議論し、各人が改善すべき点を頭に叩きこむ。小さなセクションの上には、いくつかのセクションを束ねる部単位のアメーバがあり、さらにその上には部を束ねる事業本部規模のアメーバが存在する。本部長クラスになると、会長、社長の前で評価の会議が開かれ、問題点と是正策の詳細な報告を求められる。このアメーバの積み上げによって、全社レベルの収益状況が詳細に把握される仕組みになっている。