男性たちは空気のように権力を持っている

こうした認識のズレはなぜ起きるのか。

刑法の性犯罪規定の改正にも関わってきた千葉大理事で副学長の後藤弘子さんは、社会構造に起因していると指摘する。

「そもそも同意とは対等な関係が前提になければならないのに、今でも社会における男女の権力、力の差は明らかです。対等だということは声をきちんと聞いてもらえるということ。幼い頃から家庭内でも男の子の声はより耳を傾けられ、社会に出れば権力を持ち、自分が言えば組織が動くという経験をしている。

男性たちはこの権力構造にあまりに無自覚です。性犯罪とは権力犯罪であり、まず男性たちが空気のように権力を持っていることを意識しなければならないのです」

「勘違いしていたから仕方ない」?

そして司法も、この権力構造の不均等を理解していると言えるのだろうか。性暴力事件に詳しい弁護士の上谷さくら氏は、「相手が同意していると誤信したと認定され、故意ではなかったと不問になるケースが散見される」と、朝日新聞の取材に対して刑事裁判の問題点を指摘している。

「殺人罪の場合、相手の心臓を刃物で何回も刺した人が『殺意はなかった』と主張しても通らない。でも、性犯罪になると、相手が嫌がっている態度を取り、客観的にも同意があるとは思えない状況であっても、『同意があると勘違いしていたのだから仕方ない』という理屈が、なぜか通ってしまうのです」

私は2024年5月、ジェンダーギャップランキングで15年連続1位のアイスランドを取材した。首相官邸の人権平等省や首都のレイキャビク市にジェンダー平等政策などを聞いたほか、学校におけるジェンダー教育も取材した。

アイスランドの首都レイキャビク。アイスランドは「男女格差が90%以上解消された唯一の経済国」と言われている
筆者撮影
アイスランドの首都レイキャビク。アイスランドは「男女格差が90%以上解消された唯一の経済国」と言われている

訪れたのは15〜19歳が学ぶ、日本では高校にあたる共学の学校だった。15歳のクラスでは16時間にわたり、ジェンダー平等とはどういう状況か、現状や法律などを教えており、中でも注力しているのが性暴力に関する教育だという。