予想外のことが起きる「5区」
もう1つ強烈な引力を放っているのが、標高差864mの「天下の険」こと箱根の山を駆け上がる5区。登り坂に加えて、強い風や雪、路面凍結、気温低下などの難しさもある最大の難コースだけに「大逆転」や「大ブレーキ」などのドラマが起きやすい。
さらにかつて11人抜きを達成した順天堂大・今井正人のほか、東洋大学・柏原竜二、青山学院大学・神野大地の3人が驚異的な走りで「山の神」と呼ばれるなど、スターが誕生しやすいのも魅力の1つ。正月番組をザッピングしていても「5区だけは見る」という人が多いなど、最大の見どころが盛り上がり続けていることは箱根駅伝の強みと言っていいだろう。
その他でも、次年度の出場権を賭けたシード権争い、レジェンドたちが作った区間新記録の更新、留学生の快走など、視聴者を引きつけるドラマティックなシーンは多い。一方、制作サイドは、視聴者がそんなドラマを望んでいることを知っていて、感情をあおるような実況をしている。
そしてドラマティックという点で忘れてはいけないのは、箱根駅伝が学生の大会であること。「箱根駅伝に出たいから関東の大学に入る」「4年間という限定的な挑戦」「卒業したら競技引退する選手が多い」「社会人のようなお金のためではなく、夢と仲間のために走る」「部の伝統や仲間との絆をかけて走る」という思いの強さや儚さは学生ならではであり、視聴者を引きつけている。
ニューイヤー駅伝との決定的な違い
実際、大学を卒業したあと「燃え尽き症候群」となって実業団に進んでも伸び悩む。あるいは「お金のために走りたくない」と実業団からの誘いを断ってしまうという選手もいる。つまり、「箱根駅伝が人生の最終目標」として挑む選手も多く、一途な気持ちが視聴者にも伝わっているのだろう。
実業団による駅伝日本一決定戦の全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)が、同じ正月3が日の1月1日に放送されているにもかかわらず箱根駅伝ほど盛り上がらないことからもそれがわかるのではないか。
しかし、「学生だから」というだけでこれほどの高視聴率を叩き出せるわけではない。
やはり大きいのは正月3が日に生放送されていること。社会人も学生も長期休みの人が多く、帰省なども含めて家族や友人で集まる機会が増える。さらに在宅率が通常の休日よりも高いため、リアルタイムで見てもらいやすい。「みんなで一緒のものを見て楽しむ」という点で箱根駅伝は最高の条件下にあると言っていいだろう。