はないちもんめでは「緒方さんがほしい!」

退職後、確かに環境や生活リズムは変わった。一般的にはそれをセカンドライフと呼ぶのかもしれないが、緒方さんは「自分自身の心境には何の変化もない」と語る。

緒方健二『事件記者、保育士になる』(CCCメディアハウス) 

軸になっているのは今も、子どもを守りたいという強い思いと、どんな相手とも理解し合える関係性をつくろうとする姿勢だ。

保育学科という、年齢も育ってきた環境もまったく異なる人たちの集団に飛び込んだとき、まず心がけたのは「互いに理解し合える関係になろう」ということだった。その姿勢はやがて相手にも伝播し、同級生たちとの仲は日に日に深まった。

たとえば、幼児体育の授業で「はないちもんめ」に取り組んだときのこと。2チームに分かれて、歌を歌いながら仲間にほしい人を取り合う遊びだが、誰も自分をほしがらないだろうと思っていたら、相手チームの女子学生たちが声を揃えて「緒方さんがほしい!」と言ってくれた。

人気アイドルグループ「SixTONES」のことを「しっくす とーんず」と読んだときは、同グループを推す女子学生から「ストーンズって読むんですよ」と笑顔で、かつキッチリと指摘された。

学生からプライベートな相談ごとを持ちかけられたこともあれば、将来は一緒に仕事をしたいと言ってもらえたこともある。

こうしたエピソードから伺えるのは、構えることなくやりとりできる気安い関係性だ。同級生たちが心を開いてくれたのは、この人は一生懸命自分たちを理解しようとしてくれていると感じたからこそだろう。