「私たちの調査で、60代の男女に『50歳前後のときに、もっと取り組んでおけばよかったこと』を尋ねたところ、1位は『老後のための資金準備』で約4割に上りました。いまや人生100年時代。お金のことに限らず、引退後の生き方を自ら“設計”しておくことは、現役世代にとって必須でしょう」
明治安田生活福祉研究所の横田直喜主任研究員はそう話す。
同研究所ではこれまで、「セカンドライフの生活設計に関する調査」をはじめ多様なリサーチを行い、興味深いデータを発信している。その中では、65~69歳のシニア層に「生活全般への満足度」についても聞いている。結果はいかに――。
「『満足』が11.2%、『まあ満足』が59.5%で合計70.7%です」と渡辺直紀研究員は説明する。「総じて高い数値と考えられますが、より重要なのはいったいどんな要因が生活満足度と関係しているか。私たちは、同じ調査における回答を統計的に分析して、満足度の背景についても探っています」
分析によれば、生活全般の満足度と強く関連していたのは1番目が「生きがい」だ。そして2番目が「現在の貯蓄額」だった。「生きがい」については、抜きん出て相関の度合いが高かったという。生きる目的や理由の実感。まずはこれが欠かせないというわけだ。
「ではさらに、何が生きがいにつながっているのか。より具体的に見ていくと、趣味を持っていることが大きくプラスに働いていました。そのほか、ボランティア活動への参加、夫婦での外出なども生きがいを大いに支えています。また、頼れる友人との関わりという観点では『家族が入院したとき、手伝いを頼める』。そうした関係性の人がいることなどもポイントとなっていました」(渡辺氏)
引退後は自由に使える時間が増える。その時間を自己実現につなげられるかどうかが、やはり人生の満足度を高めるカギとなる。例えばパートナーと旅行に出かけたり、家族だんらんの機会をつくったり――。社会活動に積極的に参加するのもいいだろう。ただ、そうした時間の過ごし方は、引退して即座に始められるものではない。現役時代から意識しておくことが大切だ。
「ご自身の仕事やスキルアップと関わりのある分野から趣味やボランティア活動を探していくことも一つの方法です。あまり構えずに、関係、関心のあることから広げていく。多忙なのはわかりますが、それを言い訳にせず、少しずつでも自分の時間を持つことが大切でしょう」と横田氏。
そして、渡辺氏も続ける。
「最近では自身の専門的な知識や技術、ノウハウを生かして社会に貢献するプロボノ活動も広がりを見せています。いずれにしても、引退後を見すえて社会との関わりを深めておくことは、充実したセカンドライフの糧になるはずです」
マネープランを立てる際お金の生かし方も考える
一方、生活全般の満足度ともう一つ関わりが深かった「貯蓄額」。こちらについて明治安田生活福祉研究所では、あるシミュレーションを行っている。40~64歳への調査をもとにして、「65歳の時にあると安心できる貯蓄額」(平均約2800万円)に向け、現役世代が現在のペースで貯金を続けた場合、その額に到達する人がどれくらいいるかを割り出したのだ。結果は、半数以上が安心できる貯蓄額を“確保できない”というものだった。
「老後必要なお金はご家庭によって個別性が高いため、2800万円という金額はあくまで一つの目安です。しかし冒頭お話ししたとおり、『老後のための資金準備』について後悔しているシニア層が非常に多いのは事実。しっかりマネープランを立てることはやはり大事になります」と横田氏は言う。
まず家計の収支が将来的にどのように推移するのか、具体的に計算してみるのが第一歩だ。
「今であれば、ねんきん定期便などで将来もらえる年金額は基本的にわかります。また住宅ローンが残っている場合も、今後の支払い額、期間は決まっているでしょう。そのほか、退職金や保険によって得られるお金の情報などもあるはずです。それらを個別に眺めるのではなく、総合的にとらえることが大切。現在は、ネット上でマネープランをわかりやすく示してくれるサービスもありますから、一度試してみるのもいいでしょう」(横田氏)
低金利が続く中、預貯金だけでお金を増やすのは難しい。できるだけ早い段階から投資の視点を持って資産運用を始めることも大事になる。時間を味方に付け、引退後の収益源を確保しておくのが理想的だ。
そして渡辺氏は、マネープランを立てる際に、お金をどう生かすかも併せて考えることを勧める。
「例えば、60歳、70歳、80歳のときにどんな生活をしていたいのか。どんな楽しみを持っていたいか。それをイメージして、実現のためにどれだけのお金が必要かを考えてみる。目的があることで、より前向きに資産形成に取り組めるはずです」
充実したセカンドライフを送るにあたり、“生きがい”と“お金”はまさに車の両輪。二つを結びつけて考えることで、現役世代がやるべきことが見えてきそうだ。かつて余生と呼ばれた時間は、“第2の人生”となった。その満足度を高められるのは、ほかの誰でもない、自分自身である。