「思いがけない親切行為」と題されたこの動画は、「彼女の1日がより良いものになったことを願うよ」とのキャプションとともにTikTokに投稿された。視聴者からは「素晴らしい善行です。私なら泣いてしまうでしょう」「彼女の気分を和ませたようだし、こうした行為が世間には必要だ」といった好意的なコメントが寄せられた。
だが、豪ニュー・サウス・ウェールズ大学の専門家は、オンラインニュースメディア「カンバセーション」オーストラリア版に見解を寄せ、「親切な行為」どころか「年齢差別」だと批判している。「孤独な老人女性が他人とのふれあいを欲しており、赤の他人から花束を渡されても喜んで受け取るだろう」という前提自体、このTikTokerの傲慢な思い込みに過ぎないとの指摘だ。
「老人はふれあいに飢えている」という思い上がり
果たして、この専門家の指摘は正しかった。知らぬ間にサプライズ動画のターゲットとなったメルボルン在住のマリーさんは、豪ABCニュース・メルボルンのラジオ番組に出演し、「私の静かな時間を邪魔され、同意なしで撮影・アップロードされ、事実と異なる内容に作り変えられました。彼はこれで相当なお金を稼いだことでしょう」と不快感を示している。
マリーさんは問題の本質について、「特に高齢女性が、見知らぬ人から花をもらって喜ぶだろうという父権的な思い込み」であると指摘。父権的とはすなわち、立場の弱い者に対して情けを掛けるようでいて、実際には本人の意志を無視する行為を言う。マリーさんは、「(ジャケット云々ではなく)最初から花を渡すと言われていれば、お断りしていましたが、その機会すら与えられませんでした」と語っている。
動画はタブロイド紙でも取り上げられ、「お年寄りの胸打つストーリー」との触れ込みで広まった。マリーさんは「最初こそジョークのように感じましたが、(孤独な老人扱いする)記事を読んで、人間らしさを奪われたように感じました」と振り返る。
撮影側は事態をどう捉えたか。撮影者のポールク氏の代理人は、「公共の場での撮影であることから、法的に同意は必要ない」と主張し、あくまで正当な動画との立場を崩していない。その上で、「愛情と思いやりを広めることを目的としたものが、誰かに心配をかけることは望まない」との声明を発表し、女性が望むならば動画は削除する意向を示した。動画は現在、削除されている。
マリーさんは自身の経験から、「Facebook、Instagram、TikTokなど何も使っていないのに、私の身に起きたことです。誰にでも起こりうるのです」と注意を呼びかけている。
勝手に「のぞき魔」に仕立て上げられた男性
偽の感動物語は、ネットにあふれる無断撮影動画のなかでもまだ良い方だ。より悪意に満ちた編集に晒されることもある。米デジタルメディアのボックスは、米大手小売チェーン「ターゲット」の店舗で起きた無断撮影の事例について報じている。