無断アップロードされる危険は誰にでもある
いつからか公共の場での動画撮影は、「目くじらを立てるほどでもないこと」との共通認識が出来上がってしまったようだ。街を歩けば至る所にスマホがあふれかえっている。見知らぬ人々が自撮りに夢中になったり、周囲を顧みずに動画を回したりしている今、自分が映り込んだ動画が知らぬうちにソーシャルメディアで拡散するリスクは如何ともしがたい。
映り込む程度なら実害はまだ少ないが、海外では意図的に無断撮影された動画が勝手に出回る例が問題となっている。何気ない所作を悪意ある編集で切り抜き、当時の事情を無視して「心ない行為」として勝手に拡散されるなど、自分の映る動画が独り歩きし炎上するケースが複数報告されている。
高齢者への思いやりを装った「感動のサプライズ動画」や、ジムでトレーニングに励む人々をあざ笑うかのような無断撮影、そして女性客の尻に見入るかのような動画を公開されてしまった男性店員など、愉快とは言えない事例が相次ぐ。
こうした心ない動画は、広告収入を投稿者に分配する「収益化」のしくみにより、転載され加速度的に拡散されてゆく。いくつもの無断撮影の被害例が、誰の身にも起きうるリスクの恐ろしさを物語る。
“孤独な高齢者”に花束を贈る…一見粋な動画が問題に
英ガーディアン紙は、メルボルンのショッピングセンターで撮影された「心温まる」TikTok動画の事例を報じている。動画は5900万回以上視聴され、1100万件以上の「いいね」を集めた。
この動画では高齢の女性が、ショッピングモールのエスカレーター脇にあるオープンスペースに腰掛け、コーヒーを片手に独りくつろいでいる。そこへ、通りすがりの買い物客を装った若い男性が近づいてくる。TikTokクリエイターであり動画投稿者のハリソン・ポールク氏だ。ジャケットを着たいが手が塞がっているので、少しの間この花束を持っていてほしい、と女性に依頼する。
ポールク氏がジャケットを着終わるのを見計らい、女性は花束を返そうとする。しかし、ポールク氏は花束を受け取らず、「良い1日を」とだけ言い残して颯爽と立ち去る。女性は驚いた様子で固まり、手元に残った花束を見つめたまま顔をしわくちゃにする。編集された動画を観ると、あたかも孤独な高齢女性を感動させた、小粋なサプライズ企画のように感じられる。