いかに「不確実性」をコントロールできるか

1960年代というかなり昔のエピソードですが、ここで重要なのは、ボトムアップの戦略は、決して無計画な戦略なのではなく、トップダウンの戦略があった上で、予期しない状況をポジティブに捉え、市場のニーズに適応したということがポイントです。大型バイク以外が売れることは計画通りではなく失敗である、という判断をしてしまっていたら、この成功は生まれていないのです。

当時と比べてますます未来の予測が難しい現在において、トップダウンの戦略の緻密さ故の硬直性や、変化への不適応といったリスクをイメージしていただけましたか。

このリスクを避けるには、いかに戦略においての余白を担保し、ボトムアップの戦略アプローチを意図的に生み出すか。それによって不確かな未来を予測するのではなく、「不確実性」をコントロールできるかが、今の戦略には求められているのです。

chocoZAPの「ボトムアップ戦略」の巧みさ

予測ができないのであれば、事実を積み上げて不確実性を低減するしかありません。そのためにボトムアップ戦略を意図的に取り入れ、市場を「予測」するのではなく、「不確実性」をコントロールするのです。この意図的なボトムアップ戦略の設計は、ウェブマーケティングとの相性が非常に良く、市場からのフィードバックをリアルタイムで得られるので、不確実性のコントロールにはうってつけです。

一時期、マーケティング業界では「chocoZAP」(RIZAP)が広告バナーやランディングページを数百種類以上も作成し、高い注目を集めていました。多種多様なそれらの広告クリエイティブは、「ビジネスパーソン」や「若い女性」など想定される人物像ごとに使用する写真や描写を変え、市場で発生しているであろうニーズがイメージできる状況やシーンが描かれ、今までジムに行かなかった人たちが得られる便益を事細かく分類したクリエイティブで運用されていたのです。

写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
chocoZAP(チョコザップ)のロゴ、看板(=2023年4月24日、埼玉県)

おそらく従来のトップダウンの戦略であれば、自社ブランドの伝えたいメッセージを固定し、そのメッセージを一貫してアピールした認知施策によって顧客を獲得しようと考えてしまうでしょう。

しかしchocoZAPは、あらゆる側面からの大量のコミュニケーションによって、消費者は何を求めていて何を求めていないのかをリアルタイムにデータを収集。その中で自社収益性、市場規模性、他社優位性の最大公約数を、サービスの便益を享受できるあらゆる「個」の集合体から導き出すアプローチを実践したのです。