国民年金保険徴収率の疑問

自営業者などが主体の国民年金では、その保険料を最初から強制的に徴収できない(滞納を続けると最終催告状などを経て、強制徴収にいたることもある)。このため保険料を実質的に納付した者の比率は2023年で44%(公表資料から筆者推計)にとどまっている。

ところが、厚労省による発表では、その納付率が78%で「11年連続の上昇」となっている。これは「何らかの事情」による納付免除・猶予者の比率が被保険者数の43%(596万人)にまで持続的に高まっている影響もある。年金保険料が自動的に免除される、生活保護受給者(高齢者以外)は約100万人に過ぎず、しかもその数は徐々に減少している中で、なぜこれほど多くの免除者が増加するのだろうか。

出所=厚生労働省「国民年金の加入・納付状況」により作成

国民年金の免除者が将来的に受け取る額は国庫負担分の給付のみとなり、満額の半分しか受け取ることができない。免除者の増加は財務省の負担増にはなるが、年金財政には直接影響せず、見かけ上(いわば財務省が肩代わりすることで)の全体の徴収率を高めているだけである。

保険料未納付者には強制徴収制度もあるが、その可能性のある対象者は、収入から経費を控除後の所得が300万円以上のみと自ら公表しているケースで、2年間で時効となる。これは税金の滞納者を見逃さない国税庁との徴税制度の違いは明らかだ。

国民年金の給付額を増やす有力な手段として、被用者と比べて60歳と短い保険料納付期間の65歳への延長がある。これには半分の国庫負担が付くため、被保険者には有利な改正だが、国会で立憲民主党の批判を受けると、政府はあっさりと撤回した。

また、もともと十分な額とはいえない国民年金の給付を補うために、その上乗せ給付としての国民年金基金が設けられているが、その加入者は任意加入のため33万人と被保険者数の2%に過ぎない。年金制度間の合理的な助け合いは必要だが、被用者年金からの支援を受ける前に、国民年金の財政基盤を強化する余地は大きいのではないか。

なぜ年金給付が毎年減額されるのか

前述したように、そもそも高齢化に伴う年金受給者の増加への対応を、毎年の給付削減で行うという、マクロ経済スライドの導入自体が基本的な誤りであった。英米や独などの先進国では、67~68歳の年金支給開始年齢が一般的なのに、世界でトップの長寿国の日本がなぜ65歳と低いままなのか。他国は、平均寿命は日本よりはるかに低いのに、支給開始年齢は日本より遅いのと比べて、どう考えても不合理である。

高齢で働けなくなってから年金受給額を毎年減らされるのを回避するために、まだ現役で働けるうちに、平均寿命の延びに比例して就業期間を伸ばし、希望する場合は繰り上げ年金受給を選択する。そうすればインフレに見合って増える年金額が確実に保障される。こうしたグローバルスタンダードの年金制度改革が、なぜ日本では実現できないのだろうか。

この高齢化に応じた年金支給開始年齢の引き上げという選択肢を、厚労省はタブー視し、年金部会での議題にもあげていない。この支給開始年齢の引き上げ問題をめぐっては、フランスでも大規模な反対デモが生じたが、マクロン大統領は将来世代のために不退転の覚悟で押し通した。この日仏の違いは、目先の内閣支持率のみにこだわる日本政治の貧困と、それにおもねる年金官僚に大きな責任がある。