「将来世代の基礎(国民)年金の給付水準を3割底上げする」。厚労省が提出した案に対して、昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんは「必要とされる年金制度の抜本改革を避けて、単に保険料を取りやすいサラリーマンから取る小手先の対応だ」という――。
年金手帳と小銭
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たくさん厚生年金の保険料を支払った人からの横流し、横取り

厚生労働省の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会は11月下旬、将来世代の基礎(国民)年金の給付水準を3割底上げする案を提出した。

基礎年金は現状、33年後の2057年度まで支払う年金額の目減りが続き、65歳時点の基礎年金の受給額が現在より3割低くなる。基礎年金しか受け取れない人は低年金に陥る恐れがある。

もし、今回の改革案が実現すると、基礎年金の減額期間が2036年度に終了し、21年前倒しされる。加えて、給付水準は3割上がる。ほぼ全ての年金受給者が恩恵を受ける、といういいニュースのように見える。

しかし、実態は被用者(サラリーマン)の負担増による国民年金の救済策である。

SNSにはこんな声が飛び交っている。

「たくさん厚生年金の保険料を支払った人からの横流し、横取りで、年金保険に対する信頼を根底から壊す」

前述したように、国民年金の給付額は今後、マクロ経済スライドにより減少を続けることになっている。低年金者の国民年金受給者が多い中、これは大きな問題だが、なぜそうなっているか。他の先進国のように、平均寿命の延びに比例して年金支給開始年齢を引き上げて給付水準を維持するという、年金制度改革の王道の政策を封印したことよる結果である。

少子高齢(長寿)化のコスト増を、毎年の年金給付の削減で賄えば、年金受給者が窮乏化を強いられるのは当然だ。それにもかかわらず、保険料の未納付率の高い国民年金の救済措置として、保険料を強制的に天引き徴収される被用者の負担増で対処するのはあまりに安易な手段だ。これは本来、必要とされる年金制度の抜本改革を避けて、単に保険料を「取りやすい被用者から取る」小手先の対応といえる。