日本企業の国際競争力は下がったまま
さらに2006年版(2005年12月13日公表)になると、報告書は「経営者よ 正しく 強かれ」と、何かのまちがいか、あるいはブラックジョークかと目を疑うほど勇ましいタイトルがつけられています。
そして、「賃金決定においては、生産性の裏付けのない、横並びで賃金水準を底上げするベースアップはわが国の高コスト構造の原因となるだけでなく、企業の競争力を損ねる」とあります。賃下げで企業はROEを引き上げることに成功したものの、半導体企業の国際競争力は下がったままです。
2008年版(2007年12月19日公表)においても「生産性に応じた総額人件費管理」を掲げていますが、現実には労働生産性に応じた人件費決定は四半世紀にわたって反故にされているのです。
労働組合は正当な権利を放棄している
せっかく、経営者が「生産性に見合った人件費決定」と20年以上にわたって言い続けているわけですから、日本労働組合総連合会(連合)は今年の賃上げ率を要求するだけではなく、過去の生産性に見合って人件費が決定されなかった分も要求すべきです。そうでないと、過去二十数年間の生産性向上にともなう賃金を放棄することになってしまいます。
厚生労働省が公表する賃金統計(毎月勤労統計)の実質賃金と、春闘賃上げ率(実質化した数字)の相関性は、1997年を境に大きく変化しました。1996年まではおおむね両者には強い相関関係(*5)がありました。春闘賃上げ率が決まれば、その年の実質賃金の上昇率はおおむねわかったのです。
ところが1997年以降、両者はほとんど無相関となりました。春闘賃上げ率(実質化)は、雇用者全体の実質賃金の動向を決める要因ではなくなったのです。
*5 春闘賃上げ率(x)、実質賃金増減率(y)として、1971~1996年までと、実質賃金が下落に転じた1997~2023年までの2区間に分けて相関係数(r)を計算すると、前者(ただし第1次石油ショック後の1974~1976年の3年間を除く)は0.8621、後者は0.1656。後者において、xとyはほぼ無相関。