「経団連史上初の女性副会長の誕生」は喜ばしいが…
企業に例えるなら、採用内定した新卒が入社と同時にいきなり取締役に就き、屋台骨を支えてきた筆頭副社長が顧問に退く。あたかもスタートアップ企業と見まがう、異例ずくめの人事が何と経団連の副会長人事で現実になった。前者は経団連史上初の女性副会長の誕生であり、後者は会長、副会長を輩出し続けてきた最強企業のトヨタ自動車が副会長ポストから外れるという一大事だ。
異例の人事は旧態依然で硬直化したままの経団連の人事構造を切り崩す一穴となるか注目もされているが、一方でこの異例人事こそ、地盤沈下が指摘されて久しい経団連のさらなる弱体化につながりかねない危うさも漂う。
経団連は3月8日の会長・副会長会議で、6月1日に開催する定時総会で選任される新任の副会長人事を内定した。新任7人のうち中西宏明会長(日立製作所会長)の肝いりの人事は、これまで経団連で一切活動実績がなかったディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長の登用だ。戦後発足した旧経団連(経済団体連合会)までさかのぼっても会長はおろか、副会長も男性ばかりで、南場氏の登用で初の女性副会長が誕生する。
DeNAの正式加盟は、副会長人事発表の1週間前
安倍晋三前政権が掲げる女性活躍促進の政策に沿い、経団連は2030年までに企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げてきた以上、建前としても首脳陣への女性起用を課題としてきた。
しかし、経団連の最高意思決定機関である会長・副会長会議の座を射止めるには経団連の活動で実績を積み上げなければならないのが大前提だ。しかも伝統的に「経団連銘柄」と揶揄される有力企業が指定席化しており、これらを押しのけて新参者が副会長ポストに座るのは至難の業という以前に、あり得ない話だった。
まして、DeNAは経団連に加盟しておらず、副会長に登用される資格はなかった。
それを可能としたのは、中西会長が南場氏を説得し、副会長人事の内定を発表する3月8日の直前の3月1日にDeNAが経団連に正式加盟するという「裏技」を使って初の女性副会長の誕生にこぎ着けた。