南場氏の就任に伴い、副会長は18人から20人に増員
南場氏については榊原定征前会長当時から白羽の矢を立て、副会長就任を打診してきたとされる。しかし、南場氏はIT企業などの存在感が薄い現状に「経団連は本当に経済界を代表する気があるのか」との疑問を呈し、再三の要請を断ってきた経緯があった。
それだけに南場氏の副会長起用は、新卒の入社内定者を入社と同時に取締役に起用したとの例えがまさに当てはまる。経団連はこれに併せて、定時総会で副会長枠を18人から20人への増員を決める。
初の女性副会長の誕生は、ジェンダー・アンバランス(男女格差)を是正する潮流が世界的に広がる中で、一見すると女性が超えられそうで超えられない「ガラスの天井」を打ち破ったと捉える向きもいるだろう。
しかし、経団連の首脳陣は大企業の社長、会長が就く不文律から、これまで男性オンリーの選択肢しかなく、そもそもジェンダー・アンバランスの改善とは無縁な世界だった。それに今回決まった副会長の増枠を併せて考えれば、ジェンダー・アンバランスを是正するなどと、そんな高い次元で捉えることはできない。
女性活躍促進に応える「特別枠」にしか見えない
中西会長は南場氏の起用について「アイデアや発信力には感銘している。副会長になってもらえることは誠に幸いだ」と自らの人選を自画自賛する。しかし、ジェンダー・バランスで最後進国に位置する日本の現状を踏まえれば、女性副会長は経団連としては女性活躍促進、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(多様性と受容性)の要請に応える「特別枠」としか見えない。
この点について、中西会長は新任副会長を内定した後の3月8日のオンラインによる定例記者会見で、「ダイバーシティ・アンド・インクルージョンを実現するには社会の仕組みを変えることにまでさかのぼって、相当強く意識して取り組まなければならない。経団連の会長・副会長についてもこれは課題と認識している」と語っており、この点を意識した人事であることは疑いようがない。
しかし、硬直化したままの会長・副会長ら首脳陣の構成に関しては、中西会長は決して伝統を破ることに前向きとは言えない。だから、結局は、「広く経済界の声を経団連活動に反映させていく必要があり、各業界を代表するような企業のトップが就任することは維持しつつ、その上で何ができるか引き続き検討したい」と言葉を濁らせるしかなかった。