給与も社会保障も格差が大きい
出稼ぎ労働者は湖南省や四川省などの内陸部から、仕事を求めてやってきた農村戸籍保持者が多く、安いアパートや工場の社員寮などに住んでいる。若者だけでなく、地元で仕事がなく、仕方なく広東省にやってきた中年も多い。ほかに、日雇い労働者もいて、毎日違う建設現場などに働きに行き、日給をもらって生活している人も少なくない。彼らはもし病気にかかっても、地元の人と同じような社会保障は受けられない弱者だ。
深圳で日本人男児が刺殺された事件の犯人の素性は不明だが、蘇州市の日本人学校近くのスクールバスのバス停で中国人女性を刺殺した男は、報道によると、「他の都市から蘇州にやってきた」ことがわかっている。外来者はその都市との縁がないため、知人や友人が少なく、相談する人も少ない。中国語の発音も異なり、なまりがあるため、すぐに外来者だとわかってしまい、差別の対象にもなる。
「負け組」を救済するシステムが存在しない
私は最近、中国で今年大ヒットした映画『逆行人生』(邦題:『アップストリーム~逆転人生~』)を観る機会があったが、映画では、大都市のデリバリー配達員のほとんどが地方出身者で、過酷な労働条件で働いていることを描いていた。配達員は、中国ではエッセンシャルワーカーのひとつであるのに、地元の人は軽蔑し、ほとんど就こうとしない職業だ。
日本に住んでいるとわかりにくいが、このように、中国社会には差別やひずみ、社会問題が多数存在し、その中から「負け組」が生まれる。しかし、弱肉強食の中国には、彼らを救済するシステムは存在しない。
広東省政府はこのほど「8つの喪失者」として、「投資に失敗した人」「職を失った人」「人間関係で不和を抱えている人」などを洗い出し、管理強化につとめると公表したが、政府が厳しく締めつけることが、犯行の抑止力になるのか、非常に疑問だ。経済が成長しているときには、政府を肯定的に捉える人が多かったが、社会が反対方向に回り出したとき、さらに大きな事件が起こる可能性もあるのではないか、という不安を覚える。