あくまでも仮定に基づいた数値
「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」の「真の」陽性的中率は、PET検査の感度が17.83%だったという過去の研究(※5)を参照して計算されています。感度とは、実際に病気のある人のうち陽性と判定された人の割合です。感度が17.83%だと、がん患者のうち80%強が見落とされることになります。PET検査によるがん発見例が22例、見落としが約101例だとすると、「真の」がん患者数は約123例で、「真の」陽性的中率は123÷1053≒11.7%という計算です。
これは、あくまでも仮定に基づいた数値です。PETがん検診と線虫検査に関する多施設調査チームからも、「『真の』陽性的中率を11.7%と試算されていますが、我々のデータからこの数値を求めることはできず、我々の論文にもその数値はありません。実測したものではなく仮想の数値と考えます」と指摘されています(※6)。
しかも、PET検査の感度が17.83%だとする過去の研究は、3000人弱を対象に、PET検査だけではなく、胃や大腸の検査、低線量CT、腹部超音波、PSA、マンモグラフィ、子宮頸部細胞診、骨盤MRIといった全身の検査を徹底的に行い、多くのがんが発見されたというものです。さらに、現在の主流であるCT検査を併用したPET/CT検査ではなく、PET単独が主流であった時代の研究であることにも注目する必要があります。
陽性的中率は対象集団の有病割合など、諸々の条件によって変わるため、線虫検査の陽性的中率が高いと主張したいのであれば、過去の研究を参照するのではなく、線虫検査で高リスクだと判定された人を対象にした新たな研究を行わなければなりません。しかし、がん線虫検査を提供する企業はそうした研究を行っていません。なぜでしょうか。
※5 国立研究開発法人 国立がん研究センター「多臓器を対象としたPETによるがん検診の精度評価に関する研究」
※6 PET&PET/日本核医学会PET核医学分科会「PETがん検診と線虫検査に関する多施設調査」
子宮頸がん検診の感度がおかしい
また、この企業の提示した他のがん検査の感度、特異度、陽性的中率についての記述にも疑問があります。
さまざまな条件によって変わる指標を、条件を統一せずに比較するときには注意が必要ですが、それ以前に挙げられている数字に疑問があるのです。とくに、9月27日付のプレスリリースで挙げられていた子宮頸がん検査の感度が2.5%というのは、いくらなんでも低すぎます。「国立がん研究がん情報サービスの『がん登録・統計』より算出」とありますが、感度や特異度を算出した具体的な方法は示されていません。報告によっても差はありますが、たとえば、がん情報サービスのサイトには「子宮頸部擦過細胞診」の総合感度は65.8%とされています(※7)。
その後、10月7日付のプレスリリースでは、なぜか子宮頸がん検査の感度が6.7%に修正されています。しかし修正に関する説明や、以前の2.5%という数字が間違っていた理由については一切触れられていません。「【要精検率、陽性的中率】を参照し算出」ともありますが、やはり感度や特異度を算出した具体的な方法は示されていません。要精検率と陽性的中率だけからは感度や特異度は計算できないので、何らかの仮定が用いられているはずですが、それも明らかにされていません。
もしも子宮頸がん検査の感度が2.5%あるいは6.7%といった低い数字であれば、病変のほとんどを見落とすことになり、検査としての意義が疑われます。「実社会データ」で本当にそのような数字が算出されたのであれば、これまでの常識が覆される大発見です。ぜひとも他の専門家が検証できるように算出方法を公開していただきたいものです。現段階では、感度の算出において何か重大な誤りが生じていると考えざるを得ません。
※7 国立研究開発法人 国立がん研究センターウェブサイト がん情報サービス 医療関係者の方へ「子宮頸がん検診」