熊本市は社会調査を行う姿勢を崩さず

運営する慈恵病院が熊本市長に公開質問状を提出したのは、ゆりかごの運用状況を検証する市の検証部会が6月に提出した最新の検証報告書に、過去の検証報告書を踏襲して「最後まで匿名を貫くことは容認できない」「社会調査を実施するべき」と明記されたことがきっかけだった(連載第4回)。

それに対し、10月末、熊本市が回答文を発表し、記者会見を行った。熊本市児童相談所の所長は「匿名で預け入れることは許容」するが、その後、預け入れた親を相談につなげる方針を示した。

できる限り親と面会して親がどんな困難に置かれているのか、誰に対して身元を明かしたくないのか、などについて聞き取りを行うとともに、ケースごとに異なる事情に添って、父母等の選択を尊重しながら、こどもの最善の利益が確保できるように支援するという。

また、社会調査についても「法令で義務付けられている」として引き続き行っていくと回答文に記した。

筆者撮影
熊本市と専門部会の回答文

会見で改めて確認されたのは、ゆりかごに預け入れられた赤ちゃんについて、社会調査を実施する方針に変わりはないということだ。

預け入れる女性の支え方にすれ違い

だが、双方を取材してみると、どうも「社会調査」について設定している範囲や指摘している問題点が、微妙にすれ違っているようなのだ。

慈恵病院側は「身元を突き止めるほどに強権的な調査を行うのは人権上の問題がある」「社会調査には本人の同意を得るべき」とし、他方、児童相談所長は「社会調査はゆりかごに預け入れるほどの深刻な困りごとの内容を知り、支援につなげるためだ」と説明した。

その裏には「親の身元を探し出すことだけを指しているのではない」という意味合いも含まれているが、女性の側に立つ慈恵病院は、「調査内容や目的はケースバイケース」とする児相の判断を信頼していないという根本的な問題が横たわる。

児相長の説明には不明瞭な点が残った。ただし、会見後、市の幹部は「過去には身元を暴くようなやり方もあったようだが、そういうことはやらない方針だ」とも話した。