20日連続長野にいても本社・大阪の社員にバレなかった
最後に、なぜフルカイテンが伊那にオフィスを構えているかについて説明しておかなくてはならないだろう。
現在フルカイテンには50名を超える社員がおり、完全なフルリモート勤務を実現している。社員の住所は、文字通り北は北海道から南は九州まで。中にはコスタリカで暮らしている社員までいるという。
フルリモート化のきっかけはコロナ禍だったが、リモートワークを率先したのはCEOの瀬川と宮本だった。20日間にわたって社員にナイショで伊那で仕事をして、社員の反応を見た。社長が長野でリモートワークをしていることに社員の誰も気がつかなかったから、フルリモート化は可能だと判断したという。
年に数回、伊那でワーケーションを行ったり、大阪本社に全社員が集まるオールハンズ・ミーティングを行ったりして、社員が顔を合わせる機会は作っているが、原則、フルカイテンに出社はない。だから、どこで暮らそうと自由であり、それぞれが気にいった場所で仕事をすることを社長自ら実践し、推奨しているのである。
伊那で暮らしている理由
問題は、なぜ伊那なのかである。
意外なことに、瀬川と宮本が伊那で暮らしている理由は、雄大な山々や豊かな自然環境もさることながら、伊那市立の伊那小学校にあるという。伊那小学校はユニークな教育を行っている小学校を取材したドキュメンタリー映画『夢見る小学校』(オオタヴィン監督)に登場する学校である。
もともと夫妻の長女は大阪の小学校に通っていたが、瀬川は勉強だけを重視して宿題を山ほど出し、禁止事項も山ほどある大阪の小学校、そして大阪の教育環境に嫌気が差していたという。
「だって、長女が保育園の時の保護者なんて、うちの子『鬼滅の刃』って漢字で書けるんですよ、おほほほほなんて言っていて……。こんな勉強だけの画一的な価値観の中で子どもの心がのびのび育っていくのか、生きる力がついていくのか、本当に疑問だったんです」
瀬川はなんとしても、子どもの教育環境を変えてやりたいと思った。なぜなら、瀬川自身が両親や学校の干渉をほとんど受けることなくのびのびと育ち、遊びの中でさまざまなことを学び工夫した経験が、フルカイテン起業に至る独自の人生の基礎になっていると感じていたからだ。