市場規模の差

実はMLBとNPBの市場規模は90年代だとほぼ同じだった。

1995年時点では両者とも1500億~1600億円台で拮抗していたが、四半世紀後でNPBは2割増にとどまり、MLBは一ケタ増やして日米差を9倍に広げた。

この差は選手の年俸にも反映している。

NPBでの歴代最高は一ケタ億円だが、ヤンキースのジャッジは約60億円。今年ドジャースに移籍した大谷の契約金は、10年で7億ドル(約1067億円)と発表された。各球団が支払う選手の総年俸額も、10倍ほどの差ができている。

なぜ、四半世紀でここまで差が広がったのか。

厳しい競争の中で改革を進めてきたか否かが最大の要因と言えよう。米国ではアメフト・バスケットボール・アイスホッケー・野球と4大スポーツがファン獲得にしのぎを削ってきた。その中でMLBは、テレビ放映権の高額化とグローバル市場の開拓で総売上の拡大を図ってきた。

具体的にはリーグ全体の価値最大化だ。

MLBは各チーム共存共栄のため、公平な立場のコミッショナーに大きな権限を与えた。テレビ放映権が個別チームごとに行われるNPBと異なり、独占的に交渉することで収入増を図り、各チームに配分する方式を採用した。

テレビ中継だけでなく、デジタル配信にも着手した。これもMLBの事業とし、利益を各球団に還元している。この全試合世界配信の試みは、グローバル市場の開拓にもつながった。

MLBの各球団には外国人選手に関する制限はない。その点、NPBには一軍登録5人まで、ベンチ入りは4人までと規制されている。制限のないMLBには当然各国から才能が集まり、世界中の野球ファンが注目する最高のリーグに成長した。

改めるに遅すぎることはない

すべてを単純比較できないが、こうした改革の影響もあって、日米格差は決定的となった。

要はファンを増やし単価を上げ、掛け算の結果が急膨張をもたらしたのである。今回のWSのチケットが、安くても10万円超で最高値は数百万円という数字をみても明らかだ。

では、NPBは今からでも、MLBを追って進化できるだろうか。

答えはもちろんイエスだ。2006年から3年ごとに開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、日本代表は5回中3回優勝している。代表別通算成績でも、30勝8敗・勝率.789は断トツだ。

選手のレベルは世界の中でも超一級品である。後は野球ビジネスのやり方をMLBのように進化させることだろう。2004年の近鉄とオリックスの合併構想から端を発した「プロ野球再編問題」の時に、一球団が多数意見を封じる出来事があった。

NPBの最高議決機関が、コミッショナーではなく12球団のオーナー会議であり、“声の大きい”球団の意見が優先され全体最適化を図れない構造となっていることが最大の問題だとメディアは報じたが、その構造は現在も解消されたとは言えない。

今回も、NPBはフジの取材パス券を剥奪した。毎日新聞は、NPB幹部が「スポンサーを含めて、日本の野球界全体で日本一を決める試合を行っている裏に、わざわざワールドシリーズの番組をぶつけてくるのはおかしい」と語ったと報じている。

MLBがアメフトやバスケットなどとの競争を避けずに努力したのと対照的で、いかにも狭量で強権的という印象はぬぐえない。

お山の大将の利益が優先される姿勢。そうこうしているうちに日米の格差は拡大するばかりだ。このままではNPBがMLBの二軍として、優れた選手の供給機関という立ち位置に拍車をかけてしまいかねない。いや、すでにその傾向は否めない。

たまたま時期が重なった今回の日米頂上シリーズ。

両者の差を明確に認識できたことを奇貨として、ぜひNPBの進化に真剣に取り組んでもらいたい。

その際に大切なのは、時代の変化を拒まず、先端技術を巧みに取り入れ試合をショーアップする努力。MLBと並ぶワクワクするリーグへとNPBが改革に着手するのに遅すぎることはない。

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