ベトナム人の駆け込み寺から相談の連絡を受ける

ハーさんは日本で暮らす知り合いのベトナム人や、日本語学校の教師に助けを求めたものの、児童相談所が相手では誰もどうすることもできなかった。やがてベトナム人のツテで、名古屋市の緑豊かな郊外にある徳林寺に行き着く。ネパールやチベットでよく見られる五色の祈禱旗「タルチョー」が本堂の前で風になびいている、ちょっと変わった禅寺だ。

住職はネパールに10年ほど住んでいたことがあり、日本で生活に困ったベトナム人をはじめとする外国人を30年ほど前から保護している。また、2011年の東日本大震災の際は、被災者の受け入れも行っていた。まさに現代の駆け込み寺だ。

コロナ禍においても徳林寺は、路頭に迷った実習生や留学生を受け入れている。東海地域のベトナム人コミュニティともつながっていて、同じベトナム人を支援する立場として、日越ともいき支援会ともかねてから親交があった。

その住職から妊娠案件ということもあって、私のところに電話がかかってきたのだ。

「生まれたばかりの赤ちゃんを、児童相談所に取り上げられてしまったらしいのです。いろんなところを当たったようなのですが、どうにもならずお手上げ状態なので、助けてもらえませんか?」

淡々と説明する住職の声は、隣にいるらしいハーさんの泣き声にかき消されてしまいそうだった。

支援者に対して冷淡に拒絶する名古屋の児相

ハーさんが子どもを産んで1週間ほど経った頃、別件で私は神戸に行った。未知のウイルスがじわじわと、しかし確実に日本にも侵食していた時期で、私はよほどのことがない限り公共交通機関を避け、遠方にも車で移動するようになっていた。神戸の帰りに名古屋へ立ち寄り、赤ちゃんを一時保護している児童相談所にハーさんとともに出向いた。

「日越ともいき支援会というNPOの代表理事を務める、吉水といいます。私はここにいるハーさんの支援者です。そちらで保護している赤ちゃんを返してほしいのですが」

だが、対応した職員の態度は頑なで、冷たかった。

「NPOのあなたが突然来ても、子どもをお返しすることはできません」

児童相談所は全国に232カ所あり、うち152カ所が一時保護所を設置している(2023年4月1日時点)。それぞれに担当地域が決まっていて、これまでも何度か一時保護されている子どもの引き取りを求めて、私たちが交渉を行っている。だけど、支援者として名乗り出ているにもかかわらず、こんなふうに拒絶されたのは初めてのことだった。