耕作放棄地をへべす農園に
近隣のへべす農家、各地域のまとめ役、日向市役所の農業畜産課や農業委員会などの協力も得て、大規模農作地の確保にも成功した。「耕作放棄地を少しでも減らしたい」「地元のいいもの(へべす)を広めたい」という地元の思いが追い風になった。
こうしてひむか農園は、2019年に栽培をスタート。2024年9月時点の農園は8ヘクタール、植えた苗木は8000本にまで増えた。
草刈りが大変!
あとは収穫すれば、収益が上がる……。外野からはそう見えるが、そう簡単ではない。へべす収穫は、苗木を植えて約5年後。その間が大変なのだ。
成長段階に合わせた肥料、病気を予防する最低限の薬剤の散布などのほかに、関係者全員が口をそろえて「大変です……」と話すのが、草刈りだ。ひむか農園に新卒で入社した鹿瀬拓真さんは、日焼けした顔でこう説明する。
「幼木のうちは周りに日影がないので雑草が生えやすくなり、草刈りがエンドレスに続きます。除草剤を使えば簡単なのですが、うちは限りなく有機栽培に近い方法で育てているため、除草剤は使いません。正直、大変だと思うこともありますが、一から農園を作りあげる経験は何ものにも代えがたいですね」
県の農林振興局の果樹普及指導員・藤元暁彦さんも「効率的な草刈りのために、2024年から産官連携のコンソーシアムを立ち上げて、機械化とスマート化に向けた実証試験を始めました。それでも、草の刈り残しが出てしまいました。今後も試行錯誤が続くと思います」という。
待ちに待った2024年。本格的に収穫・出荷が始まった。収穫は計4トンだったが、2032年には県全体の生産量を上回り、その後300トン規模にするのが目標だ。8年間で約75倍増。ひむか農園はもちろん、日向市や宮崎県全体にとっても未知の量になる。藤元さんは力強くこう話す。
「栽培や収穫も、これまでと同じやり方では追い付きません。農園スタッフの増員にも限りがあるので、発想をがらっと変えて栽培や収穫などの作業効率を高めないと、この規模を管理するのは難しい。同じ柑橘のかぼす(5900トンを大分県が生産)や、すだち(4057トンを徳島県が生産)の大規模生産の事例を勉強させてもらいながら、私たちもチャレンジしていきたいです」