ヒトは外見を含む第一印象によって他人を評価するという考えを裏付ける研究結果は豊富にありますが、これらの先入観の根底にあるメカニズムは未だ不明です。また、なぜ、何のために現代社会で存続しているのかも解明されていません。

今回、ペンシルバニア大の研究チームは、①広い顎や目立たない頬骨などの男性的な顔の特徴が選挙結果に寄与する、②サルが社会的優位性の判断基準に用いているシステムは、人間にも保存されているという仮説を立てました。そこで、候補者の背景や政策について知るはずがないアカゲザルを使って、視覚的特徴のみに基づいて勝者を当てられるかを実験しました。

アカゲザルは数十匹の群れで生活することが多く、集団では順位付けがされます。自分よりも地位の高いサルに視線を送り続けてアイコンタクトが起きると喧嘩の原因になるため、視線をそらす傾向があります。サルに対して、ボスザルとその個体よりも地位が低いサルの顔写真を並べて見せると、高確率で地位が低いサルの顔写真を見続けるという先行研究もあります。

研究者たちはこれらの習性を応用して、サルが長く見つめた候補者を「負け」、あまり見なかった候補者を「勝ち」として、実際の選挙結果とどのくらい合っているかを調べました。

激戦区では精度上昇

実験にはアカゲザルのオス3匹を使いました。彼らに1995年から2008年の間に行われた273回の米国知事選、上院選に出馬した候補者の顔写真を、勝者と敗者のペアにしてサルに見せると、54.6%という偶然以上の確率で敗者のほうに多くの視線を向けました。しかも、サルたちが両者間で見る割合の偏りが高ければ高いほど、勝者側の得票率が高いことも示されました。

さらに、アカゲザルの判定は、激戦区(両者の勢力が拮抗している地区)では精度が58.1%に上がることが明らかになりました。この結果は、実際の選挙で、激戦区の有権者が投票行動を決める「最後の一押し」に「顔」が大きく影響しているかもしれないことを示唆しています。

論文の中で研究者たちは「サルは、どの候補者の身元、政党所属、政策も知らなかったと想定される。アクセスできる唯一の情報は候補者の写真なので、サルは視覚的特徴に基づいて選挙結果と投票率を予測したことが示唆される」と主張しています。では、サルは具体的に顔のどのような特徴を判別して、視線に影響させていたのでしょうか。

研究者たちは、写真の候補者ペアが男女だった場合、女性に偏って視線を送る、つまり「負け判定を下す」傾向があることを突き止めました。そこで「サルは男性的な顔の特徴に敏感である」と考え、サルと人間のどちらにもオス(男性)に顕著に現れる特徴、①頬骨が狭い、②顎が広い、③顔の幅対高さの比率が高い、④下顔面突出が高い、について、写真を計測して確かめることにしました。その結果、顎の突出度(顎の幅と頬骨の幅の比)がもっとも得票率に影響しており、平均すると、勝者の顎は敗者の顎よりも平均して約2%突出していることが分かりました。また、写真のペアが女性候補者同士の場合、より顎が突き出している女性に対してサルは「勝ち判定」を下す傾向があることも示されました。