認知症リスクに備え、ある程度は預貯金で持っておく

本書のシミュレーションでは、老後資金の一部を預貯金として取っておきました。どうせなら全額を運用すればいいのではないかと考えるかもしれません。

しかし、老後資金の全額を運用するのは避けてください。やはり運用ですので、価格の変動リスクがあります。増えることもあれば、減ることもあるのです。

投資先を全世界や、株式、債券などいくつかに分散している投資信託などは、リスクが低く比較的安全な資産運用だと言われています。そして、長期で考えた場合、基本的に上昇していくという予測です。

とはいっても、リーマン・ショックのような世界経済を揺るがす出来事が起こると、大きく下がることもあります。たまたま価格が下がったときに大きなお金が必要になったら、目減りした老後資金から、さらにお金を引き出さなければなりません。

ある程度、預貯金のままにしておき、状況により引き出せたほうが、臨機応変な対応が可能です。

もしものときの出費に備えるなら、預貯金で持っておくほうが安全だし、使い勝手もいい。さらに言うなら、認知症や死亡のリスクもあります。

認知症になったときには、資産が凍結されることをご存じでしょうか。

投資信託や株式、不動産、さらには銀行の預貯金なども、勝手に売却したり引き出すことができなくなります。

認知症になると、引き出すための本人の意思を確認できないからです。また、本人に代わって親族がお金を引き出すこともできなくなります。

たとえば、新NISAの口座に1500万円あったとします。有料老人ホームへ入居する頭金にその1500万円を使いたくても、本人が認知症だと意思確認ができないため、自由に引き出せません。

長尾義弘『投資ゼロで老後資金をつくる』(青春出版社)

一方、銀行などの預貯金も同じように凍結されますが、まったく引き出せないことはありません。金融機関によっては緊急措置として、家族の引き出しをある程度は認めてくれる場合もあります。

原則としては、成年後見制度を利用して、一定の条件を満たすことで引き出せます。

年金は本人の口座に振り込まれますので、やはり口座は凍結されます。しかし、金融機関に代理人届を出せば、預金の引き出しや定期預金の解約ができます。

認知症になったときを考えても、年金や預貯金などのほうが役に立つわけです。

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