1つの歯を抜くことで、残りの歯を守る

歯科医師の中には、歯を残すことだけが歯周病の治療だと考えている人もいます。しかし、それは大きな間違いです。歯を残すことを優先することで歯周病菌や炎症を放置させてしまい、隣の歯にも歯周病が広がってしまう可能性があるためです。

それを防ぐため、残せない歯は抜いて、残った歯の環境をいかに改善させてメンテナンスに移行できるかが重要になります。残せない歯とは、重度の歯周炎にかかってグラグラしてしまっているような状態の歯です。

このような状態の場合、歯周病専門医は「もう残せない」という判定をします。たとえ患者さんが「残してほしい」と希望しても、残すべきではない状態であれば、残すことのデメリットをしっかりと説明します。

「この歯を残すことで、隣の歯までダメになってしまいます」と説明すると、多くの患者さんは抜歯を納得されます。歯を失った部分は、インプラントや入れ歯などで修復することになります。重度の歯周炎の場合、抜歯に躊躇なく踏み切れるかが治療の成否を分けます。

別のクリニックで、残せない歯をなんとか残そうとメンテナンスを続けた結果、歯周病が一向に治らず、当院に来られる患者さんは非常に多いです。歯周病の場合、1つの歯を抜くことで、残りの歯を守ることができるケースもあるのです。

高度な歯周治療は歯周病専門医に任せるべき理由

「ほとんどの歯科医院で歯周病の治療はやってますよね?」

これは当院に来る患者さんからよく聞くお言葉です。歯科医院のホームページで歯周病治療をうたっていたとしても中身が全く違います。そのため、歯周病治療はどの歯科医師でも同じ、ではありません。

歯科医師であれば、誰でも歯周病の治療をすることは可能です。しかし、歯周病を確実に治療するには専門的な知識と技術が求められます。そのため、日本歯周病学会が認定する歯周病専門医の治療を受けることをおすすめします。

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日本歯周病学会は、「認定医」「専門医」「指導医」という3つの資格を認定しています。認定医は、日本歯周病学会が認めた研修施設で3年以上研修を受け、歯周病治療の基本的な知識と技能を習得し、認定医試験に合格すると認定されます。試験は、学科試験の他、歯周病手術の1症例を提示すれば合格できます。

1症例の提示だけなので、この資格はかなり簡単に取得できます。学会がこの入り口の資格のハードルを下げている理由は、学会への参加率を上げるためと更新料です。認定医は全国に約1300名です(2024年現在)。

資格を保有すると数年単位で資格の更新が必要になります。更新するには更新料がかかります。この更新料が学会の収入になります。また資格を更新するためには年2回ある年次大会に一定数参加することが義務づけされています。これで学会参加率も上がるわけです。