療養生活への過激なイメージ

がんによる療養生活と聞いて、みなさんはどのようなイメージをもつでしょうか。メディアの一部が「壮絶な闘病生活」と取り上げることもあり、苦しみに満ちた生活を想像するかもしれません。メディアは多くの人をひきつけるために過激な表現を使う傾向があるのでは、と個人的に感じます。病気と無縁と思えれば気にならないかもしれませんが、病気と向き合っている人には強い不安を与えるので、闘病の描写について考えてほしいと思います。

私が実際の診察現場で感じるものは、報道される過激なイメージとは異なり、もっと穏やかなものです。患者さんと、ご家族や友人、医療者とのあいだには温かい人間的な交流があり、病棟では笑顔が見られ、笑い声が聞こえることもあります。さまざまな苦悩はもちろんありますが、必ずしも暗いものばかりではないのです。

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がんに伴う苦痛を過剰に恐れる必要はない

死にいたるまで苦しむのではないかという吉田さんの不安について、私は次のように伝えました。

がんの終末期に肉体的な苦痛が続くことが多くあった時代とは、いまはだいぶ状況が違います。それでも「怖い」イメージは消えないかもしれませんが、がんに伴う苦痛の内容や程度、対処法を正しく理解し、過剰に恐れないのが大切です。

具体的なデータもあります。2019~2020年にがん患者さんの遺族を対象として行われた調査では、「ひどい」「とてもひどい」という強い痛みを感じていたと遺族が回答した割合は、28.7パーセントでした。

[[2]患者さまが受けられた医療に関するご遺族の方への調査報告書(2018〜2019年度調査)/国立がん研究センター がん対策研究所2022年3月]

遺族の回答からは、7割の方は生活に支障があるような痛みを感じていないわけです。一方で、3割近くはそれなりの確率ですので、この回答で安心はできないでしょう。

ただ、この強い痛みを感じたという28.7パーセントのなかには、痛みを訴えられなかったり、対応してもらえる医療につながらなかったりしたケースもあると考えられます。つらいときに、体の苦痛をやわらげてくれる信頼できる医師(緩和ケアの専門医)とあらかじめ連携をとっておくと、苦しむ可能性をかなり下げられると思います。

実際、全国の緩和ケア病棟に入院した患者さんを対象とした調査では、中程度から強い痛みを感じている患者さんの割合は、非小細胞肺がんで34パーセント→7パーセント、大腸がんで39パーセント→19パーセント、乳がんで23パーセント→7パーセントと、入院時より、入院して治療を受けたあとのほうが減っています。

[[3] 緩和ケア病棟に入院された患者さんに関する調査結果(2017年1月~12月)/国立がん研究センター 東病院]