イギリスでも同級生の数が多いほど幸福度が低い
アメリカと同じ結果は、イギリスでも得られています。
分析を行ったのは、ミシガン大学ディアボーン校のイーワン・イェ助教とカリフォルニア大学デービス校のシュウ・シャオリン教授です(*5)。イェ助教らは2002~2018年までのイギリスのデータを用い、同じ年に生まれた人の多さと幸福度の関係を検証しました。この分析の結果、同級生が多い世代ほど、幸福度が低いことがわかったのです。
イギリスでも第2次世界大戦後の1946~1964年生れのベビーブーム世代の人口規模が最も大きく、この世代の幸福度が他の世代と比較して低くなる傾向がありました。
なお、これらアメリカとイギリスの研究では、年齢の影響を統計的手法を用いることでコントロールしています。通常、幸福度は若年層と高齢層で高くなる傾向があるため、年齢の影響を考慮しないと、すでに高齢層に入っているベビーブーム世代ほど幸福度が高いといった結果になってしまいます。アメリカとイギリスの研究では、この点を考慮し、適切に同級生の多さの影響を分析しています。
同級生の数が多いほど幸福度が低くなる2つの理由
アメリカとイギリスでは同級生の数が多いほど、幸福度が低くなる傾向があったわけですが、この背景には次の2つの要因が影響していると考えられます(*5)。
まず、同級生の数が多いほど、家庭や学校から得られる資源やサポートが少なくなります。
ベビーブーム世代の場合、出生率が高いため、きょうだい数も多くなります。このため、親が子ども1人当たりに投資できるお金や時間が少なくなってしまいます。また、学校では子どもの数が多いと、教師の目も行き届きにくくなり、教育の質が低下する恐れもあります。これらは子どもの学業成績にマイナスの影響を及ぼすでしょう。学歴はその後の人生に大きな影響を及ぼす要因の1つであり、同級生の数が多いほど、これが抑制されると考えられるわけです。
もう一つの要因は、学業、仕事、結婚面における競争の激化です。
ベビーブーム世代の場合、同級生の数が多く、どうしても競争が激しくなってしまいます。例えば、大学に進学するにも競争相手が多いため、より多くの勉強時間が求められます。また、就職する際にも同じく競争相手が多く、望んだ就職先で仕事を得るのが格段に難しくなるでしょう。さらに、結婚相手を見つけるのも大変です。結婚市場において魅力的な人ほど数多くの人から求婚される可能性が高いため、望んだ相手とうまく結婚できなくなる可能性もあります。このような学業、仕事、結婚面における競争の激化によって、自分の望みが叶わず、失望や心理的な負担を経験することが多くなると考えられます。
以上の2つの要因から、同じ年に生まれた人が多い世代ほど幸福度が低くなるわけです。