多くの議員に意識された「高市リスク」

しかも高市氏の推薦人20人のうち13人は裏金議員だった。総選挙で裏金問題が蒸し返されるに違いない。高市氏は裏金問題に切り込むことができず、防戦一方になる。ますます自民惨敗が現実味を増してくる。

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当落線上の衆院議員たちにとって「党の顔」は何より重要だ。高市政権よりも石破政権のほうが内閣支持率は上がるだろう。立憲民主党の野田氏との対決構図を考えても、実績や安定感のある石破氏のほうが野田氏との対立軸はぼやけ、足元をすくわれにくい。

総選挙で落選すれば元も子もない。目前に迫る総選挙に向けて「高市リスク」はあまりにも高すぎる。

強固な選挙地盤を持つ麻生氏は、当落線上の衆院議員たちの心理を読みきれなかったのかもしれない。麻生派が土壇場で高市氏に乗れば「勝ち馬に乗れ」という空気が一気に広がって高市氏が地滑り的に勝利すると読んだ。確かに平時ならその政局観は正しいかもしれない。

しかし、今は総選挙が目前に迫る非常時だった。やはり「高市リスク」への警戒感が何よりも勝ったのだ。

高市包囲網は、実は麻生包囲網でもあった

もうひとつは、麻生氏自身への反発である。自民党をあげて派閥解消を進めるなか、麻生派だけは「治外法権」として派閥存続を公然と宣言していた。麻生派が最終局面で高市氏に組織的に乗って勝利する展開を許せば、高市政権で麻生派ばかりが君臨し、対抗勢力は太刀打ちできない。麻生氏はこれまで以上にキングメーカーとして立ち回るであろう。

麻生氏に抑え込まれてきた岸田首相も、麻生氏に干し上げられてきた菅氏や二階氏も、麻生氏に忠誠を誓ってきたのに総裁選で見捨てられた茂木敏充氏も、そして裏金事件で解散に追い込まれた最大派閥・安倍派の面々も、最高権力者である麻生氏の支配力が高市政権誕生でさらに増長することに恐怖を感じたのではないか。

高市包囲網は、実は麻生包囲網でもあったのだ。

小泉氏を担いだ菅氏と、高市氏に土壇場で乗った麻生氏のキングメーカー対決は共倒れに終わった。漁夫の利を得たのは、党内基盤が脆弱な石破氏である。石破氏は菅氏に跪いて勝利したわけではない。あくまでも「アンチ高市・アンチ麻生」の票がなだれ込んで勝ったのだ。だから「菅傀儡」になることはない。人事でもフリーハンドを得た。自分を押し上げたみんなを納得させるために絶対にやらねばならないことはただ一つ、麻生氏を徹底的に外すことである。

「麻生外し」の布陣…「石破―菅―岸田の大連合」が完成した

石破氏は麻生氏に代わって副総裁に菅氏を据えた。幹事長には菅氏と岸田氏の双方に気脈を通じているベテランの森山裕氏、選対委員長には菅氏が担いだ小泉氏を起用。官房長官には岸田派の林芳正氏、政調会長には岸田派の小野寺五典氏を登用し、岸田氏に配慮を示した。