「心房細動」と「心不全」はコインの両面のようなもの

心房細動と心不全はコインの両面のようなものだ。心不全は、『心臓の働きが悪く、それが原因で息切れやむくみといった症状がでること』と定義されている。

心房細動が原因で心不全になってしまう場合もあれば、逆に、心不全になったことで心臓に負担がかかり心房細動が起こることもある。また心房細動を起こすことで心不全を悪化させ、そうなると余計に心房細動が治りにくい、まさに悪循環に陥ってしまう。

「いくら薬で心房細動を抑えても、長い目で見ると結局、患者さんの寿命はあまり変わらない。でも最近は、カテーテル手術で新しい治療ができるようになってきた。

心房細動の原因となる異常な電気信号が起こっている部分を、冷却したり焼灼したりすることで、その乱れを整えることができるんです。これによって、薬での治療が難しかった患者さんも治療ができるようになってきました」

撮影=中村 治

カテーテル手術というのは、足の付根にある大腿動脈という血管からカテーテルと呼ばれる細い管を入れて心臓まで通し、血管内から治療を行う手術のことだ。

従来の外科的な手術よりも体への負担が少ないので、術後の回復が早く合併症のリスクも低いという特徴がある。

カテーテル手術が全ての人にとって最善であるとは限らない

心臓を扱うのは循環器内科ともう一つ、心臓血管外科である。

心臓血管外科医として、「心臓弁膜症」の患者を扱ってきたのが、とりだい病院心臓血管外科教授の吉川泰司だ。高齢化に伴い患者数が増えていると吉川は指摘する。

「心臓弁膜症は加齢による影響が避けられない。例えば心臓の弁が分厚くなる肥厚だとか、石灰が付着して硬くなるのを遅らせるということは、今の医学ではまだ難しいんです」

左心室の入口に「僧帽弁」、出口に「大動脈弁」、右心室の入口に「三尖弁」、出口に「肺動脈弁」という血液の逆流を抑える「弁」がついている。心臓弁膜症とは、加齢や感染症などの問題によって、これらの「弁」が正常に機能しなくなる状態の総称である。

治療方法の一つは「弁」の置き換え――弁置換術である。

人工心肺という装置を用いて心臓と肺の働きを代行、一時的に患者の心臓を停止させた状態で切開して手術を行う。これが「開心術」という術式だ。心臓を停止させるため、安全な手術時間は4時間まで。術者は、迅速かつ正確な技術が求められる。

近年、開心術以外にも、TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)と呼ばれるカテーテルを使った手術が可能になった。

カテーテルは、患者の身体への負担が少ない「低侵襲」手術である。ただし、と吉川は留保をつける。

「日本ではTAVIが保険で受けられるようになってから、まだ11年。海外でも保険診療になったのは2000年代後半なので、まだカテーテル手術で使う人工弁自体が長持ちするかどうか誰にもわからない。

例えば70歳の人にカテーテルを入れると、10年後に80歳で弁がダメになるかもしれない。でも、そこでもう1回カテーテルを入れるとなると、場合によってはできないこともある」