視聴者には26日、総合テレビで5分間の特別番組を編成、事件の経緯を説明して謝罪、尖閣諸島問題や慰安婦問題について日本政府の見解をあらためて伝えた。
そして、9月10日、稲葉会長は記者会見し、21ページにおよぶ詳細な調査報告書を公表、「『放送の乗っ取り』とも言える事態で、慙愧に耐えない」と、苦悩に満ちた表情で謝罪した。
報告書では、「事前の兆候」があったにもかかわらず適切な対応をとらなかったことや、事後の対応についても緊張感が欠けていたことなど、組織運営上の問題点も明示された。
また、処分は、幹部役員にとどまらず、国際放送局長ら5人を減給などの懲戒。さらに、Gメディアの社長と専務も月額報酬の30%【1カ月分】を自主返納すると発表した。
翌11日には、総務省が注意の行政指導を行った。
NHK75年の歴史の中でも、最大級の汚点と受け止めている様子が伝わってくるようだった。
20年以上中国語ニュースを担当、過去の検証はできず
事件が起きた背景には、17言語におよぶ国際放送はチェックが効きにくいという指摘がある。ほとんど視聴されていないという実情から、現場のモチベーションは上がりにくく、スタッフも少なくて複数の目でチェックする体制が整っているとは言い難い。
NHKを震撼とさせた当の中国人スタッフは、2002年から20年以上も中国語ニュースの翻訳とアナウンスに従事していたそうなので、現場では「おまかせ状態」になっていたのでないだろうか。
そうなると、今回の尖閣諸島発言だけでなく、過去にも不規則発言が続出していた可能性がある。ところが、中国語ラジオ放送の録音は過去3カ月分しか保存しておらず、93本については「問題なし」を確認したものの、それ以前に遡ろうとしても、事実上、検証不能なのだ。
動機は不明だが、当初はNHKと直接業務委託契約を結んでいたのに、2018年から関連団体のGメディアとの契約に切り替わり、給与などの待遇面で不満を募らせていたという。また、しばらく前から、中国政府の方針とは異なる内容を発信することへの不安なども口にしていたという。
Gメディアは、事件直後に当人との業務委託契約を解除。NHKは1100万円の損害賠償を求めて提訴し、刑事告訴する構えもとった。だが、当人は既に日本を出て中国に帰国したようなので、追及は難しいかもしれない。
外部委託が増え、「電波テロ」のリスクが高まる
今回の事件は、中国語を理解できるスタッフがそばにいたからすぐに発覚したが、他の言語だったら、どうだっただろうか。
国際放送は、欧米の主要言語のほかに、アラビア語、ベンガル語、ビルマ語、ヒンディー語、ウルドゥー語、インドネシア語、ペルシャ語、スワヒリ語など多岐にわたっている。