生放送のニュース番組で阻止できず

“電波テロ”事件は、8月19日午後、ラジオ国際放送・NHKワールドJAPANなどの生放送の中国語ニュース番組の中で起きた。

NHKによると、関連団体のNHKグローバルメディアサービス(Gメディア)と業務委託契約を結んでいる中国人の男性スタッフ(48歳)が、靖国神社の石柱に落書きがあった事件の日本語のニュース原稿を中国語に翻訳して読み上げた後、突如として22秒間にわたり、中国語で「釣魚島(尖閣諸島の中国名)と付属の島は古来から中国の領土です。NHKの歴史修正主義宣伝とプロフェッショナルではない業務に抗議します」、さらに英語で「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」と、原稿にはない発言を続けたという。

また、靖国神社の落書き事件のニュースも、日本語の原稿にはない「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」という文言を勝手に加えて放送していた。

番組には、中国語がわかる日本人職員のデスクやGメディアのディレクターが立ち会っていたが、原稿とは違う内容に気づいたものの、突然のことで、発言を止めることも、放送を止めることもできなかったという。

放送終了後、当人は、デスクらと押し問答になったが、「日本の国家宣伝のために、これ以上個人がリスクを負うことができない」と語り、「僕は辞めます」と言って、早々にNHK放送センターを退出した。

NHKの「最大級の汚点」になった

未曽有の重大事件に驚いたNHKは、直ちに事態の掌握にとりかかったが、担当者らは動転し、局内の情報共有はもとよりGメディアとの連携もスムーズにはいかなかった。

とりあえず、当日夜の総合テレビの「ニュースウオッチ9」で、「ラジオ国際放送で不適切な発言があった」と一報を報じたものの、全容は明らかにはしなかった。その後、22日と25日に、2度にわたって事実関係の追加訂正を発表するなど、数日間にわたって混乱ぶりを見せつけた。

想定外ともいえる突然の事件に、稲葉会長は、否でも応でも政府や国会、与野党の会合などを駆け回り、「NHKの国際番組基準に抵触するきわめて深刻な事態で、放送法で定められた担うべき責務を適切に果たせなかった。深くおわび申し上げる」と、ひたすら陳謝した。

写真=時事通信フォト
中国語ニュース放送問題について謝罪するNHKの稲葉延雄会長=2024年09月10日午後、東京都渋谷区

林芳正官房長官は「遺憾だ。わが国の立場とは全く相いれない」と批判。松本剛明総務相からは「日本への正しい認識を培う国際放送を担う公共放送としての使命に反する」と厳しく責められ、国会議員からは「国益を損なう事案」と指弾され、まさにサンドバッグ状態となった。