技術と人脈
浦島さんの「お金持ち」と同じように、釜石で初めて聞く「将来の志望」があった。服をつくる系に行きたい——そう話してくれたのは、浦島さんと同じ釜石商工高等学校2年生(総合情報科)の猪又千穂(いのまた・ちほ)さんだ。
「とりあえず目立つことがやりたくて、その選択肢のひとつとして今、考えているのが、服を作る系です。子どもからお婆ちゃんの普段着まで、 何でもやりたいですね。かっちりしたものも、舞台衣装とかもつくりたいです」
猪又さんはお洒落さんですか。
「好きではあります(笑)」
ここで浦島さんをはじめとする他の女子メンバーからつぎつぎと「突っ込み」が入った。「チッコ、こだわりあると思いますよ」「なんかその日のテーマを決めてるのと、あと、これが着たいと思ったら、ぜったいその服着ないと気ぃ済まないし」「そうだね、そうだね」「あと、目当ての物が出るまでは、似たやつもあんまり買わない」——猪又さんが笑いながら言う。「なんでそんなに知ってるのかな?!」
しょうがないから手を打つか——という服の買い方、着方はしない、と。
「ないです」
いつ頃から、そうういう自分を自覚しましたか。
「たぶんもともと親がお洒落っていうか、好きで、子どものころから」
再び周囲から突っ込み。「お父さんの方がお洒落なんじゃない?」「うん、チッコのお父さんはお洒落だと思った」。猪又さんが返す。「でも、お父さんに服選んでもらったことないよ」。こちらも会話に参加する。皆さん、なんで人の家のお父さんがお洒落だという情報まで持ってるの? 「なんか、ハットとか被ってるし」「でもチッコのお父さん、もう定年だよね」「こないだお父さんに会って、定年だよとか言われて」。猪又さんによればお父さんは「ついこの間までロン毛で、カウボーイハットにポニーテイル」というお洒落さんだ。釜石出身のお父さんの仕事は「もともとは長距離トラックの運転手なんですけど、ちょっと膝を悪くしてから、今は構内だけってかんじ」とのこと。
猪又さん、服をつくることを仕事にしたいなと思ったきっかけは何ですか。
「服を買いたくてお店に行っても、結局好きなのがないから、じゃ自分でつくりたいな——みたいなかんじです」
それを仕事にしてみたいと思ったのはなぜでしょう。
「なんだろう……自分がほしいと思うものに自信を持っているというか。『絶対これはいいものだ』と言えると思うから、それを周りの人にも着てほしいというか、そんなかんじですね」
服をつくる仕事に就くには、何を手に入れる必要があると思いますか。
「技術と人脈」
学校歴よりも、そのほうがウエイトが大きい?
「でも学校には行きます。最終的には技術と人脈を持ってることが重要だけれど、とりあえず就職を考えると、学校の名前というのは需要かなってかんじです」
具体的な学校の名前は頭にありますか。
「今、とりあえず行きたいのが、文化です」
文化服装学院——山本耀司、高田賢三、コシノヒロコ・ジュンコ姉妹、津森千里、NIGOといった著名デザイナーの母校としても知られるが、製造から流通まで、広くファッション業界に30万人の卒業生を送り出している日本有数の専門学校だ。服飾、ファッション工科、ファッション流通、ファッション工芸と4つの専門課程を持つ。創設は1919(大正8)年。東京・新宿西口にある地上20階の巨大校舎群で約3500人の学生たちが学んでいる。初年度の学費は約140万円(四年制)だ。
お金もかかりますし、競争も厳しい世界だと思いますが。
「なんか今まで生きてきた中で、わりと叶わなかったことがないみたいな。だから大丈夫かなみたいな(笑)かんじです。経済的には、親が、進むならぜんぶ出すからと言ってくれてるんで」
そうすると、仕事に就くためにいよいよ大事なことは、最初に話してくれた「技術と人脈」になりますね。これはどうやって獲得しますか。
(明日に続く)