「西海岸以外」の白人男性がハリスの弱点を補う

トランプが分身を副大統候補に選んだのとは対照的に、ハリスはバランスの取れる人選をした。ミネソタ州のティム・ワルツ知事を選んだのだ。

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副大統領候補で私が有力だと考えていたのは、アリゾナ州のマーク・ケリー上院議員だった。ケリーは元海軍パイロット。湾岸戦争で39回の戦闘任務に就いた後に宇宙飛行士になるが、下院議員の妻が頭に銃撃を受けて重傷に。訓練を中断して妻の看病に専念した後、復帰してスペースシャトル「エンデバー」最後のミッションで船長を務めた。このストーリーは、アメリカ国民なら誰でも知っている感動話だ。ハリスよりも大統領にふさわしいといっても過言でないほど人望がある。

ただ、本人と関係ないところで障害があった。一つは連邦議会の議席数だ。現在、上院は民主党51議席、共和党49議席で、かろうじて民主党が過半数。この秋に約3分の1が改選されるが、改選対象ではないケリーが副大統領になれば、アリゾナ州を共和党に奪われる恐れがある。すでに下院を共和党に握られている状態だと選びにくい。

もう一つ、アリゾナ州は南西部で、ハリスのカリフォルニア州と隣同士であることも大きい。正副大統領候補を南西部で固めれば、その他の地域に支持を広げにくいのだ。

ハリスの弱点を補うには、西海岸以外の白人男性がいい。その点では東海岸ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事、中西部ミネソタ州のワルツ知事が有力候補に。両者、甲乙つけがたいが、シャピロはユダヤ系で若者の反ユダヤ心情に触れる可能性がある。ハリスの夫はユダヤ系なので政治的に重要なユダヤ票はそれで十分とみたのだろう。結果、ハリスは中西部の白人労働者階級ウケがいいワルツを選んだ。

ワルツの手腕は未知数だが、下院議員と知事を長く務めたベテランであり、バンスよりずっと安定感はある。よほど想定外の事態が起きないかぎり、このまま11月を迎えて、ハリスとワルツのコンビが勝つシナリオが濃厚だ。

ただし、そのシナリオでアメリカ国民が幸せになれるかはわからない。ハリスはバイデンから移民管理を任されたが、何の成果もない。外交もオンチで、メキシコを訪問したときもメキシコのことを何も知らずに失笑を買った。経済分野についても経験や実績もなく、国民の暮らしが良くなる期待感はない。トランプよりマシだが、アメリカの衰退は今後も止まらないのではないかと思われる。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年9月13日号)の一部を再編集したものです。

(構成=村上 敬 写真=時事通信)
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