弁舌の巧みさは、トランプとの直接対決となるテレビ討論会でより活きるだろう。ハリスは元検事で、上院議員になる前はカリフォルニア州司法長官を務めていた。選挙スタッフに向けたスピーチでは、「私はあらゆる種類の犯人に対応した。女性を虐待した者、消費者を食い物にしたり、自分たちの利益のためにルールを破ったりする詐欺師だ」「トランプのような人間をよく知っている」と語り、法の番人vs犯罪者の構図を強調した。

討論会でも、この点を追及することは間違いない。法廷さながらにトランプをやり込められれば、大統領の座はグッと近づいてくる。

トランプの足を引っ張る共和党の副大統領候補

トランプとハリスを比較すると、それぞれの政治家としての素養以外にも、私がハリス圧勝を予想する理由はある。それぞれのランニングメイト(副大統領候補として伴走する人)の差が大きい。

トランプ人気失速の原因は、銃撃を乗り越えて慢心したことにある。副大統領候補は、大統領候補本人が取りこぼすだろう層に人気のある候補者を選ぶケースが多い。白人男性の保守派に人気のあるトランプなら、共和党予備選で争ったインド系女性のニッキー・ヘイリーを選ぶのが無難だった。

しかし、勝利を確信したトランプは、自らの分身のようなJ・D・バンス上院議員を選んだ。ミニ・トランプを選ぶことで現在の支持をより強固なものにしようとしたわけだ。

ところが、バンスがとんでもない食わせ者だった。バンスはオハイオ州の白人労働者階級の出身で、苦学の末にロースクールを卒業。自叙伝『ヒルビリー・エレジー』がベストセラーになり人気者に。2022年にオハイオ州の上院議員選に立候補して当選した。

経歴を見ると印象は悪くないかもしれないが、バンスはもともと共和党内の反トランプ派で、選挙でトランプから支援を受けるために転向した経緯がある。支援を受ける前にはトランプをヒトラーとそしっていたが、その発言が今になって蒸し返されている。

二枚舌は、副大統領候補の指名を受けた党大会での演説にもあらわれている。バンスは安い中国製品を駆逐してメイド・イン・アメリカを復活させると言った。まるでプアホワイトの代表であるかのようにふるまっているが、自身の前職はベンチャーキャピルであり、資本家側のお金持ちだった。

致命的だったのは、過去の発言だ。バンスは3年前のテレビ番組で、ハリス、ピート・ブティジェッジ(運輸長官。同性愛を公表)、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(史上最年少の女性下院議員)を、「childless cat ladies(子なしで猫をかわいがる女性)」と揶揄。その動画が広がり、批判の的に。内容もさることながら、言い回しが幼稚でひどい。「cat ladies」は10代の子どもが嬉々として使いそうな表現であり、そのことに失望した有権者も多かった。

ちなみにハリスに出産経験はないが、夫に2人の連れ子がいる。夫の元妻は子どもたちを育ててくれたハリスに「彼女は愛情深く、いつくしみ、熱心に守り、いつもそばにいてくれる」と感謝のコメントを出した。一連の騒ぎでトランプは女性と若者の票を失った。

すでに党大会を終えた共和党は、正副大統領候補のチケット(組み合わせ)を反故ほごにすることはできない。今頃トランプは頭を抱えているはずだ。