「末廣正統苑」同様、伝統といえるのが出店戦略だ。徳次CEOは言う。
「店を出すときには、神社仏閣やお城の近くなど、そう簡単に変わらないもののそば、と決めています。なくなったり移転する可能性が低いでしょう。百貨店なら主要な店に出て、なくなったら売り場全体が成立しないような店に成長させる。揺るがないもののそばで、その地域地域に合った商いをしています」
冒頭の日牟禮八幡宮近くにある2つの店舗がまさにその好例だ。徳次CEOは神社に街灯を建て、公衆トイレを造り、環境を整備した。結果、日牟禮八幡宮は明るくなり、町全体が活気づいた。出店当時の来店客が1日わずか100人弱だったというのが嘘のようだ。
周囲からは「東京で商売してると、店を出すとこもわからへんようになってきた」と揶揄されながらも商いを続け、たねやは町の象徴となり、町の成長と発展を促した。商いを通じての地域貢献は近江商人の伝統だ。革新的な試みを次々に打ち出すたねやは、伝統的な近江商人の哲学をどこよりも地道に堅実に実践している。
中沢孝夫教授のコメント
約1000人従業員がいて、地方企業としての雇用効果がすごい。
近江商人らしい、働くことの社会人としてのマナーや人間関係を覚えていくという古典的な素晴らしさがある。和菓子屋が洋菓子に進出するという「意識改革と環境変化への対応」は見事である。
本店:滋賀県近江八幡市宮内町3/事業内容:和菓子・洋菓子の製造販売など/代表者:山本徳次CEO/年商:192億円(11年度) /従業員:953人(12年4月1日現在)