新首相は「医療改革」を強調私立学校の税優遇も廃止
スナク前首相とは対極の経歴であるのがスターマー新首相である。スターマー新首相は筋金入りの労働者階級だ。工具職人の父親と看護師の母親は、共に労働党党員である。キアというファーストネームは、労働党の創設者であるケア(キア)・ハーディーからつけられた。生まれたときから労働党とともに歩むことを定められたようなものだ。
弁護士として活躍後、政治家に転身。遅咲きだが、そこからは評価され、初当選から5年で労働党党首になった。
政策は庶民派らしく、今回の選挙でも強調したのはNHS改革だった。具体的には、待機リストを短くするため、イングランドで毎週4万件の予約診療を増やすと約束。そのためには医療のリソースを増やす必要があるが、納税回避や非定住者の税優遇などを取り締まって原資をつくることにした。
ちなみに、元弁護士の妻は現在NHSで勤務。この背景からも、机上の空論ではない現場視点の改革案である可能性は高い。
他の公約も庶民に寄り添うものである。イギリスは住宅不足が続いているが、供給を促すために関連法を改正し、150万戸の新規物件を建築。地元住民に対して開発物件の優先購入権を付与する制度も創設する。
教育では、私立学校への税優遇廃止を原資として、教師を新たに6500人増員する。6500人では少ないが、方向性としては正しい。
保守党との違いは、ルワンダへの不法移民移送問題にも表れた。イギリスは近年、小型ボートで不法入国する移民が後を絶たない。保守党はジョンソン政権時代、ルワンダにお金を払って不法移民を引き取ってもらう計画を立案した。紆余曲折があり今年4月に法案が可決したが、労働党はこの法律の廃止を決めている。
かつてアメリカがキューバのグアンタナモ基地に不法移民を送り込んで収容したケースはある。しかし、収容されるのはキューバやその隣国であるハイチからの不法移民だった。
一方、イギリスの不法移民は中近東から来た人が多く、アフリカのルワンダには縁がない。管理体制にもよるが、送り込んでもおそらく逃げられて、また移民化するだけだ。
イギリス政府は、この計画で4億ポンド(約800億円)をルワンダに支払った。無駄な支出であり、もっと暮らしがよくなることに予算を使うべきというのが国民の思いだろう。ルワンダは貰った金は返さない、と言っている。保守党の無駄遣いぶりが浮き彫りにされた。