志の高い医者は疲弊し、要領のいい医者が大儲けする不条理

カウンセリングや精神療法に十分な時間を割いて対応すれば、良くなる患者さんは確実に増えます。そうすると、評判が評判を呼んで予約が殺到するでしょう。しかし、1人ひとりの患者さんに時間をかけていると、診療できる患者さんの数は限られます。

しかも、現行の医療保険制度では、話を5分聞いても29分聞いても診療報酬は変わらないうえ(精神保健指定医による5分以上30分未満の通院精神療法の診療報酬は315点=3150円)、精神科を受診する患者さんは、きわめて繊細なメンタルの方が多いことから、カウンセリングを行うときには言葉使い一つとっても細やかな配慮を要します。

その結果、最初は「お金の問題じゃない」「心の病で苦しんでいる人を救いたい」という志に燃え、カウンセリングに時間を割いていた医者もどんどん疲弊していきます。

頑張り続けた末に、自分自身がメンタルを病んで休職したり、経営面で行き詰まったりしてクリニックを閉鎖するケースも少なくありません。

一方で、薬物療法を中心に診療している精神科のクリニックは、5分診療で薬を出して大儲けをしている。

自分のメンタルと生活を守ろうとすれば、5分診療で薬を出して回転率を上げていくしかない――そんなふうに考える医者が増えても致し方ないところがあるのです。

なぜ、精神療法的なアプローチが軽視されているのか

心の病の治療は、もともと精神療法が主流でした。主流というか、薬が開発されるまでは、精神療法しか治す手立てがなかったといったほうが正確でしょう。

精神分析学のパイオニアとして、オーストリアの精神科医であるフロイトの名は日本でもよく知られていますが、フロイトが活躍した20世紀の前半までは、彼の精神分析が最も科学的な治療法でした。

それが20世紀後半になり、脳の神経伝達物質に作用する抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬などが次々開発されたことから、精神医学は従来の精神療法より、より科学的な薬物療法へとシフトしていきました。

ところが、その後、脳の神経伝達物質を調整するだけでは良くならない病気が大量に出てきました。1970年代にベトナム帰還兵などから発見されたトラウマや、それに起因するPTSDはその代表です。

この頃から、アメリカでは精神療法家の人たちが、「やはり、心の病を薬だけで治すことは難しい」と声を上げ始め、精神療法が見直されるようになりました。

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日本は何事においてもアメリカの影響を受けやすい国ですが、精神医療に関しては、アメリカの流れを受けませんでした。

おそらく、日本の精神医療を牽引している大学の医学部では、薬物療法家しか教授選で勝てないという流れを作ってしまったため、薬一辺倒の医療から後戻りできなくなってしまったと考えられます。

もはや患者さんに最適の医療を提供するという医者の本分はなく、とにかく薬物療法家が教授の席を独占することが優先されているのがうかがい知れます。