「この10年で巨大災害が起きる」とリアルに想像すべき

自然災害では、何も知らずに不意打ちを受けたときに被害が一番大きくなる。したがって、南海トラフ巨大地震と富士山噴火に対しても、前もって最新の情報を得ておくことが重要だ。火山灰が降ってきてからでは遅い。平時のうちに準備するのが防災の鉄則である。遠回りでも正しい知識を持つことがいざという時には役に立つ。

これまで私は京都大学の講義で学生たちに「自分の年齢に十年を足してごらん」と言ってきた。20歳前後の彼らは30〜40歳代で南海トラフ巨大地震に必ず遭遇する。多くが社会で中堅として働いており、家族や子どもがいるかもしれない。そういう中で日本の国家予算の数倍に当たる激甚災害が起き、半分近い人口が被災することを想像してもらうのである。

その際に「手帳に十年先のスケジュールを記入する想像をしてほしい。10年手帳の10年目に、南海トラフ巨大地震発生と書き込んでください」とも言う。さらに「そのときに向けて、君たちは何をしたらこの日本を救えるかを考えてほしい。そのため現在、何を勉強すべきかを逆算して考えてほしい。それが君たちのノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)である」と語る。

すなわち、まず自分自身が生き延び、さらに貢献できることを考えて日本蘇生に力を貸してほしい、と毎年の講義で訴えてきた。なお、ノブレス・オブリージュはフランス語で、直訳すれば「高い地位にともなう道徳的義務」となるが、地位ある者は責任をともなうという意味である。

その昔、ヨーロッパの貴族は、普段は遊んでいても、いざ戦争が起きると、領民を守る義務を果敢に果たした。このエピソードも24年間、学生たちに語ってきたメインテーマだった。

“想定外”をなくすためには普段からの備えが重要

さて、市民向けの講演会でも同様である。10年後の「心の手帳」に2項目を書き込んでいただき、お子さん、お孫さん、友人、会社の同僚、地域のコミュニティーなど、自分の周囲にいるできるだけ多くの人に伝えていただきたい、と話す。

企業向けの事業継続計画でも構造は同じである。10年先を見越した長期計画として、本社や工場の耐震補強、津波対策、インフラ整備、工場移転、本社機能のバックアップなどの計画を今から開始するように勧める。「自分の身は自分で守る」考え方と、「10年後に東日本大震災の10倍の被害」が口コミで日本中に広まれば、国が想定している被害の8割まで減らすことが可能になる。

鎌田浩毅『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(PHP新書)

たとえば、住宅の耐震化率を高めれば、倒壊による死者数を8割減らすことができる。また、建物の耐震化率を引き上げれば全壊も4割まで減らせる試算がある。また既存のビルを津波避難用に活用し、地震発生から10分以内に避難を始めれば、津波による犠牲者数を想定の2割まで減らせるというデータがある。

東日本大震災で大きな問題となった「想定外」をなくすには、まず日常感覚に訴える防災から始めなければならない。総計6800万人が被災する状況では、「自分の身は自分で守る」ことに徹しなければならない。誰も助けに来てくれないからだ。多様な方策がオールジャパン体制で行う南海トラフ巨大地震対策の要になると私は考えている。

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